「焼き味噌と新築の家」 山口 瞳 | 小説に描かれる味噌みそ

みそと小説「焼き味噌と新築の家」 山口 瞳

「焼き味噌と新築の家」 山口 瞳

 

『山口瞳大全』〈第4巻〉

 

男性作家でエッセイストの山口 瞳氏(1926〜1995年)の『山口瞳大全』第4巻に「焼き味噌と新築の家」という短編小説が入っています。

 

ちょっと無理をして東京郊外に注文建築の戸建てを建てた津村と、そのほうが安く買えるからと一緒に土地を購入して家を建てた隣家の田崎。

 

中学も1年で退学した貧しい田崎が、終戦の翌年、小学6年頃に自分で食べるためにこしらえたおかずの焼き味噌の話や当時の武勇伝に、育った環境が違うからとあまり理解できなかった津村ですが、焼き味噌の話をする田崎は当時のことを忘れないようにしていると察します。

 

それで考えましてね、七輪のうえに網を乗せましてね、銀紙を置いて、味噌を焼いたんです。お菜はそれだけです。 

 

あれは私の記憶違いでした。
 (略)
皿の上に味噌をべったり塗るんです。そのうえに長葱をきざんでまぶすんです。それから焜炉に金網をのせましてね、皿をひっくりかえして、金網のうえに置くんです。 

 

新築の2軒のうち、自分の家のほうが近所で有名になっているのを知った出来事で、生きるために誰もが同じあやうい道を通ってきて、誰もが同じなんだと津村は悟ります。

 

「焼き味噌と新築の家」は1969年(昭和44年)6月刊行の『別冊文芸春秋』で発表された短編です。

 

焼き味噌の部分は戦後まもなくのおかず事情がうかがえますが、ライターを職業とする津村が42歳、四谷に料理屋をもつ田崎が36歳。今は成功して郊外に大きい家(に見える家)を建てたとしても、戦後は皆あやうい道を通ってなんとか生きてきた。津村は作家山口氏自身と重なる気がします。

 


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