『女と味噌汁』 平岩弓枝 | 小説に描かれる味噌みそ

みそと小説『女と味噌汁』 平岩弓枝

『女と味噌汁』 平岩弓枝

 

『女と味噌汁』 (集英社文庫 ひ 1-14)

 

 

昭和生まれの、ある世代以上の方は当然ご存知の平岩弓枝氏(1932年〜)による『女と味噌汁』

 

短編小説として『別冊小説新潮』に1965年から連載され、同年からTBS東芝日曜劇場でTVドラマとして放送されました。

 

将来は自分の小料理屋を持ちたい、と改造車で移動味噌汁屋を始める芸者てまり こと室戸千佳子をめぐるドラマです。味噌汁のつくり方、お茶の淹れ方、休日の過ごし方、そして将来への夢へ向かう行動力。色々な問題はふりかかってくるけど、味噌汁(をメインに描かれるおいしい料理)と明るく毅然とした性格がいつの間にかゴタゴタを丸く収めてしまう。
千佳子の丁寧で明るく清潔感のある暮らし方は、女性としてもなかなかできることではありません。

 

TVドラマは第一回の放映が評判よく、シリーズ化して1980年(昭和55年)までの15年間で38話という長寿番組になりました。

 

主役の室戸千佳子に池内淳子、置屋の女将に山岡久乃、千佳子の後輩芸者 小桃に長山藍子など、昭和のTVドラマ界で(当時は無名の人もいたようですが)錚々たる配役でした。

 

薬味にねぎが刻んである。鍋のふたをとると、ぷんと香ばしい味噌汁のにおいが流れた。七味唐辛子を軽くふって、広二は味噌汁とすすった。
「うまい……」
 (中略)
「味噌汁、うまかったよ。あんなうまい味噌汁、生まれてはじめて食った、それと……お茶も……」

 

この朝食で、広二は惜しくないと思って一万円を置いていきます。月給三万円(当時としては標準)の広二が。

 

連載が始まった1965年頃の家族の食事内容がうかがえます。朝食はいつもパンでできあいの総菜が常食となっていたり、姑が家で漬ける漬物を嫌う嫁の姿があったり。

 

「(略)…近所の奥さんたら……ごめんなさい、なにも奥さんの事皮肉ってるわけじゃないんだけどどこの家でもパン食みたいな簡単な食事するらしくって、男の人、みんな味噌汁やおいしいご飯に飢えてるって感じよ。だから、あたし、小さくてもいいからお店を持ちたいの、おいしい味噌汁とおいしい漬物と……丸干しの焼いたのや、きんぴらごぼうや……おばあさんが私に教えてくれたそういうお菜を作って、あったかい御飯がいつでも食べられるような……そんなお店を考えているの」

 

鰹節を削って出汁をとるところから始まる千佳子の手づくりの味噌汁が、当時すでに手間のかかることになっていたのがわかります。

 

美味しい食事は気持ちを和ませる。とか、男性の胃袋をつかむ。とか、それだけではない味噌汁の役割が作品の底に流れています。

 


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