『龍眼流浪』 佐々木裕一 | 小説に描かれる味噌みそ

みそと小説『龍眼流浪』 佐々木裕一

『龍眼流浪』 佐々木裕一

 

『龍眼 流浪 隠れ御庭番』 (祥伝社文庫)

 

 

佐々木裕一氏(1967年〜)の時代小説。
隠れ御庭番シリーズの3冊目で、本書には4話収められています。

 

八代将軍吉宗からも認められる元御庭番の活躍を描いていますが、伝兵衛と名乗るこの老忍者は記憶を失っています。

 

記憶を失いながらも追手から逃れようと山の中をさまよい歩き熊に襲われる伝兵衛。
手についた按摩の術は流浪の先々で喜ばれ、世話になる手立てとなります。
記憶を失ったのは熊に襲われたのか、それともそれより前からなのか。

 

薬草の知識、老体ながらも勝手に体が動く剣術は相当の使い手。
流れ着く村々で、悪代官や人さらいに苦しめられる村人たちをたった1人で立ち回り、救っていく。伝兵衛の命を狙う隠密。追手は複数。相手は味方か、悪党か。

 

立ち回りのスピード感と幕府中枢の陰謀もからむスケール感は、息をつく間もなく読み進められました。

 

第二話は「焦げた味噌」というタイトル。安住の地を求めて流れついたのは遠江国掛川藩の城下町で店を構える老舗の味噌問屋「大黒屋」。伝兵衛はここで下働きとして世話になります。
記憶がない伝兵衛に付けられた名は豆吉。

 

大黒屋の跡取り息子 清吉は仕事も身が入らずフラフラほっつき歩き。顔にあざをつくって帰ってきたのを心配した女将は、豆吉に清吉の様子をうかがわせます。

 

大黒屋の隣の空き地にはかつて大棚の米問屋があったが押し込み強盗に遭い、生き残ったのは娘 おとせのみ。行方不明だった井川屋のおとせが飲み屋で働いているのを清吉は見つけますが、どうやら悪い奴らに弱みを握られている様子。清吉1人ではとても太刀打ちできません。

 

そこで豆吉が一肌脱いで活躍します。

 

悪党らに握られていたおとせの弱みは、清吉と結婚するには障害に…。

 

実は大黒屋は先代の頃火事に遭い、全てを失っていたところに助けてくれたのは井川屋の爺さま。そのことを忘れてはいけないと、大黒屋には黒く焦げて炭となった味噌が木箱に保管されていました。
今こそ恩返しの時と、大黒屋の主人 善助は清吉とおとせの結婚を認めます。

 

翌朝早く、訪人が来たので部屋へ豆吉を呼びに行った時には姿が消えていました。
大黒屋で豆吉と名づけられた伝兵衛こと隠密 里見影周の流浪は続く…。

 

大黒屋は現在の静岡県掛川市あたりの味噌問屋ですから、製造していたのは相白みそと思います。
味噌問屋が舞台ですが味噌製造の描写や店の様子はありません。時代は八代将軍 吉宗(在職1716〜1745年)が高齢となり、九代将軍 家重(在職1745〜1760年)に代わってからのようです。
味噌問屋という設定がいかにも江戸時代を演出しています。

 


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