「手前味噌」上林 暁 | 随筆の中の味噌みそ

「手前味噌」 上林 暁

 

『上林暁全集〈第16巻〉』評論・感想

 

 

 

作家の上林 暁氏(かんばやし あかつき 1902〜1980年)による 随想。"創作断想" という副題がつけられた「手前味噌」です。
『新潮』1953年(昭和28年)7月号掲載されました。

 

上林氏は二度の脳出血を患っています。

 

「手前味噌」は一度目の脳出血を患った翌年に書かれたもので、上林本人が「大患で私の創作に対する態度も、いくらか変化を来したやうに思はれる」と冒頭で書いています。

 

体は以前ほど自由が利かなくなり、徹夜で一気に書き上げることはできないから毎日少しずつ書くしかないのが少しもどかしい。
それでもわかりやすく書くように努めて、井伏鱒二氏の作品を手本にしたりしたが井伏氏の天性の文章は推敲を重ねた努力の結果だと知って励みになった。新刊の創作集を諸家に贈ったところ、作家の小山いと子氏(1901〜1989年)から「わかりやすいのは強み」と礼状をもらったのが言い得ていてうれしい。
漱石や鴎外もわかりやすく平明に書いているが、それは書き手の頭脳のなせる技だ。だから小山氏からの礼状で、彼らに近づく一歩を踏み出した気がする。

 

以上、手前味噌になつてしまつたが、手前味噌といふものは、聞き苦しいものである。

 

上林氏が51歳で書いた文章です。

 

作家として漱石や鴎外、井伏鱒二をはるか上に見上げ、病後で思い通りにならない体でも作家として良い文章を書こうという意気込みと自負心を「手前味噌」という表現で謙遜しています。

 


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