『15歳の寺子屋 前進力』 三國清三
フレンチシェフとして著名な三國清三氏(1954年〜)の自伝。三國氏55歳の2009年に刊行。
北海道増毛町町に生まれ、15歳で札幌に出て仕事を始め札幌グランドホテルでアルバイトの皿洗いから、帝国ホテル、在スイス日本大使館での料理人を経て、フランス料理界の名シェフ フレディ・ジラルデ氏、トロワグロ兄弟、ポール・エーベルラン氏、ジャン・ドラベーヌ氏、アラン・シャペル氏らと出会います。
夢の中でもフランス語で会話するくらいフランスになじんでいた三國氏ですが、シャペル氏からは自分の盛り付けを「形だけだ」と指摘されてしまいます。苦しみながらその答えを探すきっかけがまかない飯でした。
自分がつくったまかない飯が、フランス人の仲間からはまったくの不評。
彼らフランス人と日本人のぼくとでは、体が要求する食べ物がまったく違っていると思い知らされました。
(中略)
彼らにとってバターとクリームうたっぷりの料理が「お袋の味」なら、ぼくにとって「お袋の味」は味噌、米、醤油の日本食です。死ぬ前に何が食べたいかと聞かれたら、フランス料理は選びません。やっぱり、熱い味噌汁を飲みたいし、新鮮な刺身を醤油とわさびにつけ熱い御飯とともにかきこみたい。
自分は日本人。フランス人になりきったつもりでフランス料理をつくっても無理がある。そう気づいて、日本で自分なりのフランス料理、三國清三の料理を追求していこうと決心したのです。
この決心が語られたのが本書「四 バターと味噌汁」。
味噌と醤油が日本人の味覚を支配している。
三國氏の盛り付けも、日本人ならではの美的感覚によるものです。
使う素材も、和の素材を多く使います。
三國氏が、料理のオリジナル性追及に気づいたのは、味噌と醤油がベースになっている日本人としての味覚だったというのが、なんともうれしく感じます。
三國氏の味覚の鋭さは、子供時代に培われました。
今日、食育にも力を注がれているのは子供たちの味覚を守る使命感もあるんだと少しばかりわかった気がしました。