『ハリセンボンの逆襲』 椎名誠 | 随筆の中の味噌みそ

『ハリセンボンの逆襲』 椎名誠

『ハリセンボンの逆襲』 椎名 誠

 

『ハリセンボンの逆襲』 (文春文庫)

 

 

 

作家の椎名 誠氏(1944年〜)による『週刊文春』での連載(2000年5月18日号〜2001年3月1日号)38本を収録。
連載12周年を迎えた「新宿赤マント」シリーズ13弾です。

 

「うどんとうなどん」

仕事で男10人ばかりどどどっと名古屋へ行ったときのハナシ。
男たちはすぐさま名古屋名物「味噌煮込みうどん」の店にどどどっと入っていく。

 

高級フランス料理店さながらの店内の内装に不安を覚えつつ、店員さんの応対も心地よくてどどどっと注文。

 

間もなくぐつぐつ煮えたぎった土鍋入りのあの茶色い憎いやつが運ばれてきた。よくだしのきいた味噌のにおいが鼻孔を刺激する。普通よりもだいぶ堅めのうどんが汁の中に見え隠れし半分がた固まった玉子が鍋の真ん中より少し橋の位置に全体の指揮官のようにして座っている。大きめのれんげいでまず濃い味の汁をすする。うどんだけ単体で喰うのは少々から過ぎるような気がする。ゴハン必携。そのゴハンのたきかげんがまことに見事である。おしんこと合わせてこれはまあつまり三味一体の、いいですねえ"にっぽんの味"というべきものだろう。 

 

うどんでゴハンを食べるのを、こんなフランスレストランのようなしつらえの店で食べるのはいかがなものか。ラーメンライス、ヤキソバサンドパンと同じでは…おじさんたちの脳裏をよぎる。

 

前日にスペインから帰ったばかりの男が叫ぶように言う。
パエリヤは本場ではパンのおかず。

 

「ゆえに名古屋の味噌煮込みうどんはスペインのパエリヤなのである。どん!」 

 

うどん屋の昼食で一人三千五百円はいかがなものか。でもみんなうまくてマンプクなのは事実。

 

その夜「釜まぶし」の名店で宴会。とりあえず全員満足。
でも一言居士はかならずいる。「これはつまりうなぎのネコメシではないのかな。」

 

かの有名な名古屋味噌煮込みうどんと釜まぶしの名店での、男10人おじさんたちのクスリと笑えるハナシでした。

 

 

「暗闇料理店」

レストランでの照明のハナシ。

 

外国人、特にヨーロッパ系にとって日本のレストランの照明がどぎつく明るすぎる、という指摘。確かに暗めのほうが雑誌の対談でも話がスムーズ。…というハナシの中に、ホテルの朝食メニューのことがありました。

 

洋食だと、タマゴ料理を、@ボイルか、Aスクランブルか、Bフライか。
つけあわせるのは、@ハムか、Aソーセージか、Bベーコンか。
パンは、@トーストか、Aロールか、Bクロワッサン。
ジュースは、@オレンジか、Aグレープフルーツか、Bトマトか、Cパイナップルか。
選択肢はたくさん。さあどうするか、何にするか?と大変。

 

新潟のあるホテルのレストランでは「和」もいろいろ選択できる。
魚は@塩ジャケAタラの西京漬けB柳カレイのどれか。味噌汁は@赤味噌かA白味噌かBあわせ味噌か。おしんこは@糠漬けかA白菜の塩漬けか?
大変親切であり、これはホテル側も応対が大変だと思うのだが、とにかく画期的なことであった。そうしてなんだかおかしかった。

 

「ごはん」か「おかゆ」の選択くらいしかできないのが当たり前だった和定食。自宅の朝食だって、そうそう毎日変化のあるメニューではないと思います。
朝定食に受け身で当然の日本人が、さあどうするか、何にするか、とせわしなく悩んで選ぶ姿は、自分でも傍から見てもクスリとしちゃいますね。

 

著者クラスが宿泊するホテルは、ホテル内のレストランが出す朝食ではなく、ホテルの厨房が出す朝食だろう、と勝手に予想しています。

 

ビジネスホテルの気楽な朝食バイキングだったら、歩きながらお皿に乗せるだけ。選ぶのに悩むこともなく、「なんだかおかしかった」とは感じなかったかもしれません。

 

和食に慣れた外国人なら、きっと自分の好みで選ぶでしょう(朝食に和定食を選ぶ外国人観光客が現れるのはまだ少し先の気もしますが)。

 

書かれた2000年(平成12年)前後は、まだまだ訪日外国人数も476万人に満たない頃(2015年は1973万人)。新潟のホテルの朝の和定食は、ひょっとしたらロシア人対応でもあったのか? 選べる和定食は日本人向けのメニューであったに違いありません。

 

味噌汁の味噌も3つから選べるとは、画期的になりました。

 


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