落語「田楽喰い」
ん廻し(運廻し)といわれる古典落語の演目が、前半は「寄合酒」、後半は「田楽喰い」として独立して演じられています。
「田楽喰い」あらすじ
若い連中がどやどやと集まって酒を飲もうとなった。
だれがお代をもつかで、財布を忘れた、財布は持っていても空っぽ、などなど皆それぞれ逃げ口上で誰も持ち合わせがない。
それじゃあと知恵を絞った一人が、さっき通った兄貴の家の前には酒樽が置いてあった。景気がよさそうだからなんとか飲ましてもらおうと大勢で押しかける。
「一升瓶を皆で持ち寄って飲もうとなったが、場所がない。兄貴んとこの奥が広いだろうから場所だけ貸してくれ」。持参したはずの一升瓶はないのをあれこれごまかしながら、兄貴が二斗樽があるんだから酒も肴も御馳走するとなり「近くの豆腐屋が田楽屋を始めたから開店祝いに焼けた田楽をどんどん持ってくるように頼んである」。
じゃあ、とばかりに一人の男が「ン廻しで『ん』を言ったら田楽一本食べられるのはどや」
「じゃぁ、れんこん。二本もらいまひょかな」
「えーでは、きゅうりん」「そんな野菜あるかいな」
「エー、みかんきんかん、こっちゃ好かんと四本もらおか」
「産婦三人、みんな安産、産婆さん安心と十本もらおか」
だんだん皆乗ってきて、十一本、四十三本、八十六本と増えていく。
「ジャン、ジャン、ジャンジャーン、ジャーンと五つ、消防ポンプがウンウーン、鐘がカーン、カーン…」
「半鐘ならしてんのんか、ええかげんにせえ」
「火事が大きいからなかなか止まんぞ。ジャンジャーン、はよ田楽よこせ。…この田楽焼けてない。生やないか」
「火事やさかい、あんまり焼けんほうがよいやろ」
『上方落語 桂米朝コレクション〈8〉美味礼賛』 (ちくま文庫)より
酒宴での「ン廻し」は今日の「王様ゲーム」「山手線ゲーム」でしょうか(これもすでに古い?)。
金はないけど食い意地の張った若い衆たちが田楽を食べようとン廻し。酒も結局兄貴に御馳走になり、うまいことやります。
ン廻しの部分はだいぶ省略しましたが、もっといろいろな言い回しが載っていて感心するほどです。読んでいても思わす笑えました。