「黄金餅」 | 味噌みそと落語

みそと落語「黄金餅」

落語「黄金餅」

 

 

 

〔あらすじ〕
江戸の下谷の山崎町に西念という坊さんがいました。この西念さん、金をためるのはたいへんで。この山崎町っていうのは昔はこう、実に凄いところで昼間でも怖くって通れないようなところなんです。その裏長屋に住んでいるン。

 

しょいっとした風邪で寝たのが起きられなくなり、隣に金山寺を売る金兵衛という男がおりまして「おゥ、どうでぃ具合は?」「はい、ありがとうございます。金さんすいませんねえ」「医者にかかったらどうだい」「医者にかかると、薬礼てものをとられますからかから行かえんですよ」それじゃ治らないよ、といさめたものの医者には行こうとしません。「食いてえなァというもんを食うのがいいよ」「あんころ餅を二貫ほど食いたいんですが」「買ってきてやるから銭を出しなよ」「えっ?! あなた、あたしの見舞いに来たんだから買ってくださいな」「しょうがねえなァまあいいや」と走って買ってきました。「あぁ、ありがとうございます」「はやく食いなよぉ」「あたしァ人が見てると食べられな質なんですよ」「そうかい?じゃあ苦しかったらいいなよ」と金さんは隣の自宅に戻ります。

 

「はん…あの坊主ァしみったれた奴だねえ、俺が買ってきたんだから金さんも一つおあがんなさいくらい言うがいいじゃねえか。二貫ものあんころ餅ぜんぶ一人で食う気だよ。どれ、壁に穴開いてるからのぞいてやろうか」
長屋の隣同士です。壁の穴から隣を覗くと、あんこと餅を別々に分けています。餅を丸めて…懐から出したのは汚い胴巻き。そこからざらざらざらーッと二分金と一分銀が山のように出てきた。餅の中に金をくるんで次々と口に入れて全部飲んでしまいました。「餅ん中、金押し込んでやがる。金持ち(餅)なんて言おうってんかしら」そのうちに西念さん、苦しみだしました。「ウッウッ…。…。」

 

大家といえば親も同然。金さんは大家を呼んで西念さんがまいっちゃったと伝えます。「仏の遺言なんだよ、身寄りがないから金さんの寺へ葬ってくれって。あっしの寺は麻布絶口釜無村の木蓮寺ってえんだよ」「麻布絶口かい。遠いけど頼んだよ」麻布まで西念さんの亡骸を桶に入れて担いでいき、骨拾いも「いいんだよ、仏の遺言なんだよ。素人でもなんでも俺が骨拾いすんだよ」と見られないように骨の中から黄金を拾い、この金をもちまして目黒に餅屋を開きましてたいそう繁盛いたしました。江戸の名物、黄金餅の由来でございます。

 

『志ん生古典落語〈2〉黄金餅』より

 

目黒に餅屋を開いた金兵衛さんは、西念さんの隣長屋の金山寺売りでした。
金山寺とは金山寺味噌のことです。
その日暮らしの長屋住まいの売り人がその日売れそうな分だけ仕入れて売り歩く商売をしていました。
 金山寺売りの荷姿はこちらに掲載しています。

 

この噺の原話は松崎堯臣の『窓のすさみ』で、落語は三遊亭圓朝(1839〜1900年)の作といわれます。原話は落語でも人情話でもない、すさまじい奇談ですが、五代目古今亭志ん生(女優 池波志乃の祖父)の手にかかるとすっとぼけた描写でカラリとした貧乏人の生活が浮かび上がって来て、金山寺屋の金兵衛さんと同じような心持になってしまう…。落語家の腕が際立つはなしです。

(参照:『古典落語体系 第四巻』永井啓夫(三一書房))

 

 

 


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