キュピドの矢 堀口大學
「キュピドの矢」 堀口大學
キュピドの矢
春夫味噌汁が出来たあの奥さんにいただいた味噌だおれたちが買った茄子の実だ喉に骨がささったらキュピドの矢だとあきらめよう 堀口大學(ほりぐち だいがく)
堀口大學(1892〜1981年)は詩人でフランス文学者。詩中で呼びかけている春夫とは、詩人で作家の佐藤春夫(1892〜1964年)のことで、堀口大學が慶応義塾大学文学部予科に入学して『三田文学』に詩歌の発表をしていたころから同門として親しく、交友は終生続いたようです。
この詩は1926年(大正15 / 昭和元年)に刊行された詩集『砂の枕』に所収。堀口大學は1939年(昭和14年)に結婚したので独身時代につくられた詩です。
堀口大學は実母が3歳で病死し、7歳頃に父親が再婚した後妻がベルギー人で、家での公用語がフランス語。外交官だった父について外遊し、自身もフランス文学者となった人なので、食事はもっとハイカラなパンやシチューかと思ったら、味噌汁。しかも自炊です。
味噌汁は堀口大學にとって詩に読むほどの素材なのか。実母が3歳で病死した後は新潟県長岡の祖母に育てられ、旧制中学(現在の高校)卒業を機に祖母と妹と上京したそうです。18歳頃まで長岡の祖母の家の食事を口にしていたことになるので(上京の年に祖母は死去)、味噌汁を食べるのは自然なのですね。
堀口大學の他の詩作はフランス文学仕込みというか、恋や愛、エロスを詠む詩が多いです。その中でキュピドの矢が恋を予感させつつも、味噌汁が出てくるこの詩は異質です。
自作詩の朗読音声が残っています。
コロムビア創立100周年記念企画 『文化を聴く』

残されている音声は老年に近いころでしょうか、特に抑揚もなく淡々と詠んでいます。作家によっては百人一首大会の詠み手ではありませんが独特な調子をつけていたり、と錚々たる作家たちの肉声と詠み口が聴けるのがうれしいCDでした。
