『日常の物理事典』 近角聡信
東京大学名誉教授、慶應義塾大学理工学部教授などを務めた近角聡信(ちかずみ そうしん1922〜)氏の著書。1994年刊行。
ビールの泡とか霜柱、シャボン玉の形といった身近に隠れる物理学の原理を説明していておぉっという発見があり興味深い本です。
出来立ての味噌汁をお椀によそったときに、椀の下からモクモクと湧き上がるような味噌汁の対流「味噌汁の六角紋」の解説がありました。
これは味噌汁の表面が冷えた空気に触れて冷たくなり、底の方にはまだ熱い味噌汁があるという不安定な状態が原因になっている。なぜ不安定化というと、熱い味噌汁は膨張して冷たい味噌汁よりも密度が低く浮き上がろうとしているのに上部の味噌汁は冷えて沈もうとしているからである。そこである一か所の熱い味噌汁が上昇し始めたとする、すると煙突効果*によってますます上昇は盛んになる。しかし、底のほうには冷えた味噌汁が補給されなければならないから、六角柱の境界に沿って下降流を生じるというわけである。
味噌汁にも物理学のフィルターで見つめる目があるんですねえ。
自然界の六角形はハチの巣のハニカム構造はよく知られていますが、やはり六角形は特別な形なのでしょうか。
何故六角になるかというと、六角の集団が平面を最密に分けるのに都合がよい形だからである。しかし、よく観察すると、必ずしも六角ばかりでなく、五角や七角の形も見られる。
なるほど…。
この六角紋はフランス人アンリ・ベナールが1900年に油を下部から加熱して発見したので、ベナール・セルまたはベナール渦とも呼ばれます。
熱い紅茶の表面の湯気や、うろこ雲も同じ現象。成層圏を飛ぶ飛行機が見下ろす雲海にも同様な模様が見られることがあるそうです。
*煙突効果…煙突は対流を助けるための装置。煙突の内外の圧力差(機体の密度の差と煙突の高さに比例)と温度差が大きいほど吸い込み(=対流)が良い。