史料のなかの未醤ミソ未曽味噌みそ『宗五大草紙』

『宗五大草紙』

『宗五大草紙』 武家の料理に味噌みそが使われていた。

 

 

 

『宗五大草紙』は、1528年(享禄元年)戦国時代に伊勢貞頼によって著された武家の故実書で、武家奉公人としての心得や幕府殿中における諸作法などを一族の伊勢貞重に向けて書かれたものとされます。

 

伊勢貞頼は五代将軍 足利義政以降、5代の将軍にわたって仕えていました。
武家奉公人の心得らしく、作法のほか饗応膳の器の位置や出すべき酒の種類なども挿絵付きで書かれています。
現代風にいうとマニュアルのようなものです。

 

飯の食べ方

 

ここでは人前でご飯を食べるときのマナーを伝えています。
味噌汁とは書かれていませんが(汁物には透明のすまし汁と味噌の汁がありました)、汁物を食べるときのたしなみが書かれています。

 

宗五大草紙』
 
人の相伴する事。
 …
一 人前にて飯くひ候やう。さまヾヽ申候由候へ共。前に申ごとく。貴人を見合てくひ候べし。故實と申ハ。若人など前さらのさんせうをくひ。又焼物などのむしりにくきをむしりかね。手遠なる汁菜を取候とて、物をこぼしなど候事見にくゝ候。只手便なる物をくふべし。又にしの汁を吸。このわたをすゝりなどし候事分別あるべし。年寄たる人ハ鴈のかはいり。くぐゐ。くじらなどの珍物の引物などに候をば取て。大汁の上に置てもくひたる能候。若人ハ不可然候。武家にてハ必飯わんに汁をかけ候。飯をば本膳又二膳にても候へ。折敷へ分候べし。こわんに分候事なく候。出家は必ひやしるわんにつけて御参候。出家も在家も内々にてハ何としても不苦候。
 …

『群書類従 第二十二集 武家部』(続郡書類従完成会)

 

〔おおよその意味〕
人が相伴する事。
一 人前で飯を食べますときのこと。様々いうことはありますが、前に申したように、身分の高い人を見て食べるのが良い。故実というのは、若人などは前皿のさんしょうを食べ、また焼物などむしりにくいのをむしりかね、遠くにある汁菜を取りましょうといって物をこぼすなどします事は見苦しいものです。ただ手近な物を食べるべきです。またにしの汁を吸うときのこと。このわたを啜るなどするときは上品にするべし。年を取った人は鴈の皮焼、くぐい、くじらなどの珍しい物などがありましたら取って大汁の上に置いても食べるのがよいだろう。若人はそうしてはならない。武家にては必ず飯椀に汁をかけます。飯を本膳また二膳でもいただきなさい。折敷へ分けるのがよい。小椀に分けることなく。出家した人は必ず冷汁椀につけてお出しします。出家した人もしていない人も内々では何としても堅苦しくないものです。

 

飯椀に必ず汁をかけて食べるというのが現代人には解しがたいのですが、食べ終わる時に飯粒がついた飯碗に汁をかけて飯粒を残さず食べる、ということならマナーとなります。

 

また、汁にはすまし汁もありますので、味噌汁に限りません。

 

みそを使った料理

 

『宗五大草紙』には味噌を使ったメニューも出ていました。

 

宗五大草紙』
 
料理の事。
 … 
一 打海老ハゑびなまながらかはをむきて。まな板の上にてこまかにをしねやして。くずのこをまきて。をしまはしてひろぐれば。うどんのごとくなるをはからひて切て。みそをかへらかして。さと入てまいらする也。これらは今川の貞世のかゝれたる大双帋といふ物にあり。
 

『群書類従 第二十二集 武家部』(続郡書類従完成会)

 

 

〔おおよその意味〕
料理の事。
一 打ち海老はエビ生ながら皮をむいて、まな板の上で細かくたたいて、葛粉をまいて、よく混ぜて広げればうどんのようになるのを適宜切って、味噌をまぜて、さっと入れて出すのである。これらは今川貞世(了俊)が書かれた『大双紙』という物にある。

 

 

打ち海老とは、味噌を練り込んだ海老しんじょうのようなもののようです。
みそが味付け調味料として使われていることがわかります。

 

文中の「今川の貞世のかゝれたる大双紙帋」は、どうやら『今川大双帋』、別名『京極大双紙』のようです。(同じ今川貞世(了俊)による『了俊大草子』は武術のみの記載)

 

『今川大双帋』でどのように書かれているか探しましたが、残念ながら打ち海老の調理については見つかりませんでした。ただ、「食物之式法の事」という項目で、人前で食事をするときの作法や料理人の心得などが書かれています。

 


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