『料理物語』 にある味噌汁レシピ
『料理物語』は、江戸時代の料理書で、1643年(寛永20年)発行。著者は不明ですが巻末に「於武州狭山書之(武州狭山に於いて之を書く)」とあります。
第一から第二十まで食材や料理法べつに項目立てられており、第九 汁の部には汁類46種類のレシピが載っています。そのうち味噌仕立ての汁は30種類(下線)載っています。
寛永年間には汁物に味噌汁が一般的になっていることが分かる書です。
料理物語 第九汁の部
鯛のかきいりは 鹽をいりよきころにしほをのこし。なべのやけたる所へうほを入。そのうへゝいをのひたるほど古酒を入。たゞさかけのきたるとき。三番白水をさし。鹽かげんすひ合候て出し候也。すいくちは時分の景物よし。但是は鯛せぎり也。
鯛かうらいには なべに鹽を少しふり。そのまゝ鯛を入。古酒に白水をくはへ。右のいほひたひたに入候て。さかけのなきまで煮候て。めしのとり湯をさし景をおとして。かげんすい合せ出し候也。何にても木の子ねぶりなど入てよし。其外作次第。此時はたいをおろしてきり入る也。
鯛ふくとうもどきは 下地中味噌にてどぶさし。たいを入に候て。しほかげんすいあはせ出し候也。又こくなり候へば。いくたびものぶはさし候なり。但ひふくのかわ入てよし。ひふくやきてはぎてよし。
鱸の汁は 昆布だしにてすましよし。うは置こんぶ。おこも入。雲膓入てよし。かすみそうにても仕たて候也。
鯉のゐいり汁は まずゐをとり。ゐとほそわたをよくたゝきなべに入。きつね色にいりてかすをとり。酒にてもだしにてもなべをながしすて。後だしを入煮申候。こいは三枚におろし。うろこともにきり入候。夏はうろこ入事あしく候。口傳在之。しほかげん大事也。又ゐをすりてさけにてのべ別に置。にがみのかげんすい合出す流も在之。在古傳。同鯉みそ汁にては鮒のごとく仕立候。
鮒の汁は みそを中より上にして。だしをくはへよし。若若布にてもかぢめにても。ふなをまきてに申候。あまみすくなき時は。すりかつほいれてよし。いづれもみそをだしにてたて候てよし。よく煮候てさかしほさし。すい口山椒のこ。
雑喉汁は こぶなえびまじりにても。かげんは右のごとく。妻ごぼう。大こん。竹の子。何にても作しだひに入。さかしほ。すい口同。
鱈汁は 昆布だしにてすましよし。すなはちこぶ上置によし。おごかたのりもをく。みのになどをくはゆることもあり。同ひだらも汁にまし。
鯨汁 すましにかけをおとし候。みそしるにてもしたて候。妻ごばう。大こん。くきたちなどよし。竹の子めうがつくり次第。くじらはつくりざつとにえ湯をかけるともあり。又くじらにざつとにてよきも。色はじめこはく。煮候て後よきも有。可心得也。
ふくとう汁は かわをはぎ。わたをすて。かしらにあるかくしぎもをよくとりて。ちけのなきほどよくあらひきりて。まづどぶにつけてをく。すみさけも入候。さて下地は中味噌より少うすくして。にえたち候てうをゝ入。一あわにてどぶをさし。鹽かげんすい合せいだし候也。すいくちにんにくなすび。
鯒 もうをなどもふくとうもどきとていだし候。これもかわをはぎすて。ひふくのかわ入吉。仕立様はふくとうのごとく。
鮟鱇の汁 かわをはぎおろしきりて。かわをも實をもにえ湯へ入。しゞみたる時あげ水にてひやし。その後さけをかけをく。みそしるにえ立候とき。魚を入どぶをさし。鹽かげんすい合せ出し候也。又すましの時はだしばかりにかけも少おとし候。此時はうはをきつくりしだいに入。
こだゝみは 煮ぬきにて仕立候。汁をあたゝめ候て。出しさまにいとなまこ。かまぼこ。そぼろにつくり。あをのりなど入。すいあわせ出し候也。山のいもおろしても入候也。むかしは□のいもいれず。
はらゝ汁 はらゝうすみひづにおろしなど入吉。中みそにて仕立候。だし入かきなど入候時は味噌かげん口傳。
鱒汁 中みそにだしをくはへよく煮申候。どぶをさしてよし。妻はごばう大こん其外色々。但久しくたき候て又みそのあぢあしくなる事あり。左候へばあたらしき味噌をたてさし候て出しよき物也。いづれもみそをこくしてひさしくに申。しるには此心持入也。口傳。すい口山椒のこ。同葉。
しやか汁 青いわしのわたかしらすてあらひ。妻は大こんにてもめうがにても入。だしばかりにて仕たて候てよし。
すいり汁 味噌をこくして。ねいものくきともに入。よくにえ候時。鮒のすしのかしらきり入出し候也。
鶴の汁 だしにほねを入せんじ。さしみそにて仕立候。さしかげん大事也。妻は其時の景物よし。木のこはいかほど数入候てもよし。何時も筋を置。すい口わさび。柚。又はじめより中味噌にても仕立候。すましにも。
白鳥の汁 中味噌にてしたて候。又すましにも妻は時分のものつくり次第に入。
かわいりは 雁にても鴨にても。皮をいりだしを入。ほねをせんじ。なまだれ少っしてみを入。鹽かげんすい合出し候。これも妻は時分の物。惣別きの子は鳥汁にいつも入候てよし。すい口わさび。柚。
あをがちは 雉子のわたをたゝき。みそを少入。なべに入きつね色ほどになるまでいり。なべをすゝぎ。さてだしを入。にえ立次第鳥を入。しほかげんすいあはせ出候也。いりかげん大事也。霜雪正月の事なり。
山かけは だしになまだれをくはへ。雉子を入仕立候。妻は山のいも。のり。青麦にても有次第に入。いれずしてもくるしからず。
ひしほいり うす味噌にだしをくはへ。きじを入仕立候。山のいも。のりなど入て仕候。
南蛮料理は 鶏の毛を引。かしらあしとしりをきりあらひ。なべに入。大こんを大きにきり入。見ずをひたひたよりうへに入。大こんいかにもやはらかになるまでにたく。さて鳥をあげこまかにむしり。もとにしるへかけをおとし。又大こんをにてすいあはせ出し候時。鳥を入さか鹽吉。すい口にんにくその外色外色。うす味噌にてもつかまつり候。妻に平茸ねぶかなども入。
狸汁 野はしりは皮をはぐ。みたぬきはやきつぎよし。味噌汁にて仕立候。妻は大こんごばう其外色色。すい口にんにくだし酒鹽。
鹿汁 うすみそにだしくはへ。妻色々入仕立候。すいくちにんにく。こせう。
冷汁 いづれもにぬきにて仕立候。もづこ。あまのり。んろふじにても入よし。くり。生薑めうが。かまぼこあさつきなども入よし。
あつめ汁 中味噌だしくはへよし。又すましにも仕候。大こん。ごばう。いも。たうふ。竹の子。くしあわび。ひふく。いりこ。つみ入なども入よし。其外色色。
芳飯の汁 にぬきよし。かまぼこ。くり。生薑。おろし。玉子。ふのやき。あげこぶ。めうが。花かつほ。のり。きざみ候ものは。何もこまかに仕よく候。精進の時はいろいろつくり次第に入。
しゆみせん 菜も豆腐もいかにもこまかにきりたるをいふ。みそしるにだしくはふ。
ばうちじる たうふさいのめにきる事。汁同。
わり菜 かぶらともにわり付。一束に切たる事なり。中味噌にだしくはふ。
右衛門五郎 菜をながくもみじかくもきり。ひらかつほも入。ぬかみそも入たるをいふ。
柳に鞠 つまみ菜にさといもいるゝ也。
干菜汁 中みそにだしくはへ。くろ大豆。蛤。小鳥などたゝ入。さといもゝ入よし。
人参汁 大こんを大きにきり。一鹽の鯛を入。みそしるにだしくはへ。よくよくに候てよし。
おろし汁 大こんをおろし。かき。はまぐりなど入。中味噌にだしくはへしたて候。
とろゝ汁 にぬきよし。山のいも。あをのりよくよくこまかにおろしすりて吉。のりはいろよきほど入候て吉。あたゝめ過候へばあしく候。すい口こせうのこ。
納豆汁 味噌をこくしてだしくはへよし。くきたうふいかにもこまかにきりてよし。小鳥をたゝき入吉。くきはよくあらひ出しさまに入。納豆はだしにてよくすりのべよし。すい口からし。柚。にんにく。
蓬汁 みそにだしくはふ。ゑもぎをざくざくにきり。鹽すこし入もみあらひて入。又ゆがきてもよし。たうふなどさいにきり入。正二三月に吉。
はこべじる はこべをきりもみあらひ。三月大こんなどくはへ入。置もみそにて仕立候。
からげ汁 なすびを二つにわり。中を少くぼめ。あをさんせう。けしなどすり。くるみも入あはせ。しその葉につゝみ。こぶを糸にしてよくからげ入。みそしるにだしくはへよくに候て。出しさまにすいあはせ。葛をときうち候て出しよし。
じんふ汁 なすびを二つにわり。又かたなめをこまかにきりかけ候を申也。是もみそをこくしてだしくはへ。すい口けし。青山椒すりてをく。
観世汁 たうふをうすくきり。中みそにてしたて候也。これもあんをかけ出してよし。
ねぶか汁 みそをこくしてだしくはへ。一鹽の鯛を入よし。すましにも仕たて候。
鯉の観世汁 こいをおろしちいさくきりて。たうふをあぶりきり入。中みそにて吉。けし。さんせうのあんをかけて出してよし。
『續群書類従 第十九集下』(續群書類従完成會)より