味噌みそ と 史料『倭名類聚鈔』 未醤の説明

『倭名類聚鈔』

『倭名類聚鈔』 原始味噌? 未醤

 

 

 

『倭名類聚鈔(わみょうるいじゅうしょう)』は和名類従抄、略して和名抄とも呼ばれ、平安時代中期に作られた辞書です。

 

醍醐天皇の第五皇女 勤子(いそこ)内親王の求めに応じて源 順(みなもとのしたごう)が編纂したもので、名詞をまず漢語で類従し、出店となる漢籍を引用して説明し、万葉仮名で日本語に対応する名詞の読み(和名・倭名)をつけています。

 

第二十四 飲食部では酒醴類、水奨(大の部分は水)、飯餅類、麹蘖類、酥蜜類、菜羹類、魚鳥類、鹽梅類、薑蒜類と分類され、味噌などの発酵食品類の説明がありますので掲載させていただきます。

すべて漢語なのですがまず原文で。

和名 巻十六
飲食部第二十四 鹽梅類二百十三
 
鹽梅 尚書説命篇云若作和羹爾惟鹽梅 孔安國云鹽鹹也梅酢也
 
白鹽 陶隠居本草注云白鹽 爾廉反和名阿和之保 人常取食也
 
黒鹽 崔禹錫食經云石鹽一名白鹽又有黒鹽 今案俗呼黒鹽為堅鹽日本紀私記云堅鹽木多師是也
 
酢  本草云酢酒味酸温無毒 酢音倉故反字亦作醋和名酸音索官反
   陶隠居日俗呼為苦酒 今案鄙語酢為加良佐介此類也
 
醤  四聲字苑云醤
   即亮反和名比之保別有唐醤 豆
 
煎汁 本朝式云堅魚煎汁 加豆乎以呂利
 
未醤 楊氏漢語抄云高麗醤
   美蘇今案辨色立成説同m本義未詳俗用味醤二字
   味宜作末何則通俗文有末楡莢
   醤末者搗末之義也而末訛為未
   末轉為味又有志賀未醤飛騨醤志賀者近江國郡名各以其取出國郡名為名也
 
鼓(本来は豆へんに支) 釋名云鼓 是義反和名久木 五味調和者也
 
 …

 『覆刻日本古典全集 倭名類聚鈔 三』(現代思想社)より

 

酢や醤、未醤が分類されているのが鹽梅類(塩梅類)です。
塩梅とは、飲食物の調味に使う塩と梅酢、あるいはそれを混ぜたもののことをいい、調味料全体を指します。

 

醤の出典辞書は四聲字苑。和名で「比之保」ひしほ。豆醢は豆の塩漬けのこと醤油のことです。
醢については次の項↓で説明を取り上げています。

 

未醤は、出典の楊氏漢語抄では高麗醤とありますので、朝鮮半島由来のもの、韓語として書かれています。
美蘇、味醤とも書く。産地に志賀(近江国志賀のこと)、飛騨が記されています。

 

鼓は和名で「久木」くき。

 

『倭名類聚鈔』 醢ししひしお は肉類の醤漬け

 

和名 巻十六
飲食部第二十四 魚鳥類 二百十二
 
 …
醢  爾雅注云醢 乎欧反與海同和名之々比之保
   肉醤也陶隠居本草注云肉醤魚醤皆呼為不入薬用
 
 …
 

 『覆刻日本古典全集 倭名類聚鈔 三』(現代思想社)より

 

〔おおよその意味〕
醢 「爾雅注」で醢を云うには、 と同じ。和名は「之々比之保」ししひしほ。
  肉醤である。「陶隠居本草注」で云うには、肉醤魚醤を皆こう呼び醢は藥を用いない。

 

 

醢は、肉の塩漬けや魚の塩漬けのことを醢と呼ぶ、と書かれています。

 

 

『倭名類聚鈔』 蘖(正しくは木部分は米)よねのもやし は ?

 

『延喜式』には未醤のレシピが載っています。材料にある蘖」(正しくは木部分は米。以下同)について同じ平安時代に成立した『和名類従鈔』に載っていたので掲載します。
『延喜式』の未醤のレシピはこちら

 

和名 巻十六
飲食部第二十四 麹蘖類 二百九
 
麹  釋名云麹 音菊和名加無太知 朽也鬱之使生衣朽敗也

蘖  説分云蘖 魚列反和名與禰乃毛夜之 牙米也
   本草云蘖 米味苦無毒又有変蘖
 …

 『覆刻日本古典全集 倭名類聚鈔 三』(現代思想社)より

 

〔おおよその意味〕
蘖 「説分」で蘖を云う。和名で「與禰乃毛夜之」よねのもやし。米の芽である。   「本草」で蘖を云う。

 

蘖は米などを蒸して麹菌を繁殖させたものをいいます。

 

『倭名類聚鈔』 種類の多い 酒類

 

酒類についての説明もありましたので参考までに。酒類は飲食部の最初にあります。

 

和名 巻十六
飲食部第二十四 酒醴類類二百六
 
酒 食療経云酒 和名佐介 五穀之華味之至也故能益人亦能損人
 
醴 四聲字苑云醴 音禮和名古佐介 一日一宿酒也
 
醪 玉篇云醪 力刀反漢語抄云濁醪毛呂芙 汁滓酒也
 
「酉倍」 「酉麗」字附 説文云「酉倍」 音與盃同漢語抄云加須古女俗云糟交 醇未「酉麗」也唐韻云「酉麗」 取宜反又上声「酉麗」酒佐介之太無俗云阿久 下酒也
 
醇酒 唐韻云醇 音醇日本紀私記云醇酒加太佐介 厚酒也
 
酎酒 説文云酎 直祐反漢語抄云豆久利加倍世流佐介
 三十醸酒也西京雑記云正旦作酒八月成名日酎酒一名九? 於運反通俗文云?「酉殳」酒於國家也蒋魴切韻云「酉殳」於闘反酒再下麹也俗語云會比
 
「酉覃」酒 陸詞切韻云「酉覃」 音湛日本紀私記云「酉覃」酒多無佐介今案可用此字 酒味長也

酵  楊氏漢語抄云 音教和名之良加須 白酒甘也

 
「酉へんに離のつくり」唐韻云「酉へんに離のつくり」 音離和名之流一云毛會呂 酒薄也
 
糟  説文云糟 子労反和名加須 酒滓也
 
酒蟻 文線注云浮蟻 師説佐加岐散〃 酒蟻在上汎汎然如萍者也
 
酒膏 文選注云敷 佐賀阿布良 酒膏也
 
肴  野王案凡非穀而食謂之肴 胡交反字亦作?和名佐加奈一云布久之毛乃見本朝令
 

 『覆刻日本古典全集 倭名類聚鈔 三』(現代思想社)より

 

『倭名類聚鈔』 醍醐チーズなどの乳製品も

 

麹菌発酵ではありませんが同じ発酵食品のチーズ類の説明がありました。チーズやヨーグルトの勉強をすると下記の和名が出てきます。平安時代には日本に伝来していたことがわかります。
変換できない・文字化けする漢字が多いので読みにくくてごめんなさい。

 

和名 巻十六
飲食部第二十四 酥蜜類二百十
 
醍醐 本草注蘇敬日醍醐
   啼胡二音此間音内五醐字或作■(酉へんに互)餬見唐韻
   是酥之精液也陶隠居日一名斛酥言酥一斛之中得三四升也
 
酥  陶隠居本草注云酥
   音與蘇同俗音會
   牛羊乳▼為也
 
酪  通俗文云温牛羊乳日酪
   盧各反乳酪和名途宇能可遊
 
乳●(麦へんに併のつくり 以下同) 陶隠居本草注云乳成酪酪成酥
   酥成醍醐色黄白作●甚甘肥
   今案●即餅字也乳餅此俗云乳脯是也
 …

 『覆刻日本古典全集 倭名類聚鈔 三』(現代思想社)より

 

 

〔おおよその意味〕
醍醐は酥のエキスともいえ、一斛(一石)の酥で三〜四升の醍醐ができる。
酥は「陶隠居本草」がいうには、蘇と同じ呼び名で牛や羊の乳から為る。
酪は温かい牛や羊の乳をいう。
乳●(麦へんに併のつくり) 乳は酪を成し、酪は酥を成し、酥は醍醐を成す。色は黄白の色で非常に甘く滋味豊か。「麦?」の字は餅であり、乳餅はつまり乳を干したものである。 

『倭名類聚鈔』 についての説明

 

和名 巻十六
飲食部第二十四 菜羹類 第二百十一
 
 …
「艸かんむりに俎」 説文云 側魚反和名途良木楊氏漢語抄云楡末也 菜鮓也
 …

 『覆刻日本古典全集 倭名類聚鈔 三』(現代思想社)より

 

 


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