味噌みそ と 史料『養老令』

『養老令』

『養老律令』は元正天皇の718年(養老二年)、藤原不比等が勅されて大宝律令を修正して成った我が国の古代法典です。

 

720年に藤原不比等が病死して編纂が中止されるなど制定に至るまでは紆余曲折がありました。

 

さらに制定はされても直ちに施行されず、39年後、孝謙天皇朝の757年(天平宝字元年)に初めて施行された律令です。

 

本来は701年(大宝元年)に成立した大宝律令が日本史上初めて律(刑法にあたる)と令(行政法や民法にあたる)が揃って成立した本格的な律令なのですが、原文が現存していません。養老律令は大宝律令を踏襲していると考えられています。

『養老令』 味噌を扱う役職 主醤

 

国の行政組織や決まり事が書かれた『養老令』には、今日の大臣や省庁にあたる役職名と人数が記されています。
「職員令」には朝廷での饗膳を供する役職大膳職に当時の味噌といえる未醤を掌る主醤という役職が見られます。

 

『養老令』
 
職員令 第二
(三十九)宮内省 管職一、寮四、司十三
 卿一人。學出納、諸國調、雑物、春米、官田及奏宣御食産、諸方口味事。
 大夫一人。少輔一人。大丞一人。少丞一人。
 大録一人。少録一人。史生一人。省掌二人。
 使部六十人。直丁四人。
 
 
(四十)大膳職
 大夫一人。掌諸國調、雑物及造庶膳羞、醢俎(艸かんむりに俎。以下同)、醤鼓、未醤、肴菓、雑餅、食料、膳部、以供其事。
 亮一人。大進一人。少進一人。大屬一人。少屬一人。
 主醤二人。掌造雑醤鼓、未醤等。
 主菓餅二人。掌菓子、造雑餅等。
 膳部一百六十人。掌造庶食。
 使部三十人。直丁二人。駈使丁八十人。雑供戸。
 
(四十一)木工寮 (以下略)
(四十二)大炊寮 (以下略)
(四十三)主殿寮 (以下略)
(四十四)典藥寮 (以下略)
(四十五)正親司 (以下略)
(四十六)内膳司 (以下略)
(四十七)造酒司 (以下略)
(四十八)鍛冶司 (以下略)
(四十九)官奴司 (以下略)
(五十) 園池司 (以下略)
(五十一)土工司 (以下略)
(五十二)采女司 (以下略)
(五十三)主水司 (以下略)
(五十四)主油司 (以下略)
(五十五)内掃部司(以下略)
(五十六)筥陶司 (以下略)
(五十七)内染司 (以下略)
 

 

   *  *  *

 

(譯)
宮内省 職一、寮四、司十三を管す。
 卿一人。出納、諸國の調、雑物、春米、官田および御食産を奏宣し、諸方の口味の事を掌る。
 大夫一人。少輔一人。大丞一人。少丞一人。
 大録一人。少録一人。史生一人。省掌二人。
 使部六十人。直丁四人。
 
大膳職 おおかしわでのつかさ
大夫一人。諸国の調、雑物および庶(もろもろ)の膳羞(ぜんしゅう)を造り、醢俎(かいしょ)、醤鼓(しょうし)、未醤、肴菓、雑餅、食料、膳部を率いて以て其の事に供することを掌る。
亮一人。大進一人。少進一人。大屬一人。少屬一人。
主醤二人。雑の醤鼓、未醤等の事を掌る
主菓餅二人。菓子、雑餅等を造ることを掌る。
膳部一百六十人。庶の食を造ることを掌る。
使部三十人。直丁二人。駈使丁八十人。雑供戸。
 
木工寮 こだくみのつかさ
 (略)
大炊寮 おおいのつかさ
 (以下略) 
 

 『註解 養老令』 會田範治(有信堂)より

 

味噌に関係する大膳職と主醤に焦点を当てているので『註解 養老令』の引用を略させていただきました。

 

すでにほぼ読み下し文が書かれていますが、おおよその意味はこのようになります。

〔おおよその意味〕
宮内省は(下部組織として)一つの職、四つの寮、十三の司をとりまとめる。
 (中略)
大膳職
大夫が一人。諸国の調(繊維製品の税)、雑物およびもろもろの膳羞(調理食物)、醢(肉の塩漬け)や(菜の酢漬け)、醤や鼓、未醤、肴や木の実(果実)、雑餅(種々の餅)をつくり掌ります。
亮一人。大進一人。少進一人。大屬一人。少屬一人。
主醤は二人。醤鼓(豆へんに支 / 以下同)と未醤を担当する。
 (以下略)

 

当時の朝廷、宮内省の組織に未醤を掌る官職があることがわかりました。
朝廷の中で、その位はどのくらい高いものだったのかは、同じ養老令の「官吏令」に載っていました。

 

『養老令』でみる主醤の官位

 

「官吏令」には、役職の位階が書かれています。
前出「職員令」にある大膳職の役職名(大夫、亮、大進、少進、大属、少属、主醤、主菓餅)を太字にしました。

『養老令』
 
官吏令 第一
 
従一位 太政大臣
従二位 左右大臣
正三位 大納言、勲一等
従三位 太宰帥、勲二等
正四位 上 皇太子傳、中務卿
    下 七省卿、勲三等
従四位 上 弾正尹、左右大辨
    下 神祇伯、中宮大夫、春宮大夫、勲四等
正五位 上 左右中辨、太宰大武、中務大輔、左右京大夫
     大膳大夫、摂津大夫、衛門督、左右衛士督
正五位 下 左右少辨 七省大輔 弾正弼 大判事 勲五等
従五位 上 中務少輔 左右大舎人頭 大学頭 木工頭 雅楽頭 玄蕃頭 主計頭
      主税頭  図書頭  左右兵衛督 左右馬頭 左右兵庫督 大國守
従五位 下 神祇大副 侍従 少納言 太宰少武 七省少輔 大監物 中宮亮 春宮亮
      左右京亮 大膳亮 摂津亮 衛門佐 左右衛士佐 皇太子學士 内蔵頭
      縫殿頭  大炊頭 散位頭 陰陽頭 主殿頭 上國守 一品家令
      職事一位家令勲六等
正六位 上 神祇少副 大内記 弾正大忠 左右大辨大史 大親正 内膳奉膳 造酒正
      兵馬正 鍛冶正 造兵正 書工正 典鋳正 掃部正 内藥正 東西市正
      官奴正 鼓吹正 園池生 諸陵性 臓贖正 囚獄性 二品家
正六位 下 太宰大監 八省大丞 弾正少忠 中判事 左右大舎人助 大學助 木工助
      雅楽助 玄蕃助 主計助 主税助 図書助 左右兵衛佐々 左右馬助
      左右兵庫助 内兵庫正 土工佐 葬儀正 采女正 主船正 漆部正 縫部正
      隼人正 内禮正 内藥侍醫 大學博士 大國介 中國守 勲七等
従六位 上 神祇大祐 太宰少監 八省少丞 中監物 中宮大進 春宮大進 内蔵助
      縫殿助 大炊助 散位助 陰陽助 主殿助 典藥弼 主水正 主油正
      内掃除正 筥陶正 内染正 舎人正 主膳正 主蔵正 上國介
      一品家扶 三品家令
従六位 下 神祇少祐 少判事 太宰大判事 中宮少進 春宮少進 左右京大進 大膳大進
      摂津大進 衛門大尉 左右衛士大尉 大蔵大主鑰 主鷹正 主殿首 主書首
      主将〔正しくは「将」の下に「水」〕首 主工首 主兵首 主馬首 下國守
      勲八等
正七位 上 中内記 大外記 太宰大工 太宰少判事 左右辨少史 太宰大典 八省大録
      弾正大疏 左右京少進 大膳少進 摂津少進 衛門少尉 左右衛士少尉
      内蔵大主鑰 防人正 二品家扶 四品家令
正七位 下 太宰主神 弾正巡察 左右大舎人允 大學大允 木工大允 雅楽大允
      玄蕃大允 主計大允 主税大允 図書大允 左右兵衛大尉 左右馬大允
      左右兵庫大允 少監物 大主鈴 判事大属 助教 醫博士 陰陽博士
      天文博士 主醤 主菓餅 大國大掾 勲九等
従七位 上 少外記 左右大舎人少允 大學少允 木工少允 雅楽少允 玄蕃少允
     主計少允 主税少允 図書少允 左右兵衛少尉 左右馬少允 左右兵庫少允
     内蔵允 縫殿允 大炊允 散位允 陰陽允 主殿允 典藥允 音博士 陰陽師
     暦博士 書博士 算博士 咒禁博士 大國少掾 上國掾 一品家大従
     一品文學 三品家扶 職事一位家大従 三品家扶
従七位 下 (略)
正八位 上 (略)
正八位 下 (略)大膳大属 (ほか略)
従八位 上 (略)大膳少属 (ほか略)
大初位 上 (略)
大初位 下 (略)
少初位 上 (略)
少初位 下 (略)

 『註解 養老令』 會田範治(有信堂)より

 

主醤の位は正七位下です。

 

朝廷で味噌を掌る役職2人に位階が与えられているのは、それだけ重視された役職だと言えます。

 


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