『大草家料理書』にある味噌料理
『大草家料理書』は成立年不詳ですが、室町時代に大草三郎左衛門公次(きんつぐ)が足利義光の料理人として仕えたことが大草流の発祥と思われます。室町時代の武家の食文化を知ることができる史料です。
包丁の持ち方構え方から始まる全59カ条と「浄請物之覚」が6カ条。そのうち味噌を使う料理は計12カ条ですが汁物に限りません。
室町時代には少なくとも武家では味噌が調味料として使われていたことがわかる史料です。
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一 生霍料理之事。先作候て酒鹽を懸て置。汁は古味噌をこくして。能かへらかして。煮出を後入候様にして。座敷の躰により鳥を入候也。何も時の物を加へて吉也。夏菜うどなどを酒にて煎て入候也。又もみにうふも吉也。すひくちは柚を入て吉也。
(中略)
一 鹽白鳥料理之事。先作候て 能程に鹽を出て。餘りあつからぬ湯にて洗。しぼりて酒を懸け候。汁はすまし味噌少こき程にして。煎出しを後にさして。下地をかへらかして能入候也。何にても加へて吉也。但みやうがふさとも湯にをして吉。椎茸も能なり。何色にても二色程加へて吉也。
(中略)
一 生青鷺料理之事。作候て二度湯がき。酒にて付て。古味噌こくしてかへらかして。出し候時しぼり候て。にだしをもさして吉。但古味噌の時は。いものずひきを酒にて煎て入候也。又すましみその時は。なすびを酒煎にしても吉也。但椎茸茗荷なども能也。吸口は柚呼称の内しかるべく候也。
一 肥生鳥の事。作候て薄酒を懸て。ふくさみそをこくして。かへらかして入候也。但みつばぜりを湯にをしても吉。又生椎茸ふきなど又は焼豆腐などを加て吉也。
(中略)
一 野鶏はすまし味噌能也。但山のいも。あまのり。うど。つくつくし。右の間など能也。但ふくさみその時にはいもがらも吉。鳥には酒鹽をかけずして能也。又焼鳥には一通かけて吉。焼鳥をけし胡椒山椒などを加てもする事有之也。
一 鶉汁の時は。少焼候て。鳥六ツ程に切て。何にても時の物を加て。ふくさみそにて吉也。又は焼候てけしくるみなどにてあへ候事も有べし。又丸ながらわたばかり取て。くるみ。くり。けし。はじかみなど入てぬひふさぎて。醤油にてにしめて。筒切にしても出候也。
(中略)
一 魚(魚へんに襾早 / かじき)の汁は。柚の葉をまぜてもみ候て。水にて洗てしぼり入なり。ふくさ味噌こくして。大根豆腐ふきなどをも入て能也。
(中略)
一 同汁はうしほに上也。但此料理は三番の白水をいかにも薄して。出し汁物より入て味噌を袋に入て。鹽は初より少入て吹立て。加減を見る也。酒鹽はたべ候時にさしたるが能也。
(中略)
一 鯉の差味は煎酒上々也。辛し酢中也。又汁にはふくさ味噌など入て吉。加減は右同団也。
(中略)
一 鯰の料理は先切候て酒をかけ。かはひく程に焼候て。いかもねばり候程。ふくさみそにて水より入て煮付て。後を水をさしのべ候なり。
(中略)
一 同南ばん焼は。油にてあぐる也。油は胡椒又はぶたの□てあぐるなり。後味噌汁を入候也。
浄請物之覚
一 なつとう汁の事。とうふいかにもこまかに切て。くきなどもこまかに切て。ふくさ味噌にて能々立て。すひくちを入候也。但くきは出し様に入て吉也。なつとうのはしやうは如常ねせて吉也。
『群書類従 第十九集 管弦・蹴鞠・遊戯・飲食部』(續群書類従完成會)より
文中によく出てくる「ふくさ味噌」とは、赤味噌と白味噌の合わせ味噌のことです。赤味噌と白味噌の合わせ味噌のことを特にふくさ味噌といいます。