史料のなかの未醤ミソ未曽味噌みそ『本朝食鑑』 味噌のつくり方

『本朝食鑑』 1697年

『本朝食鑑』 味噌のつくり方

 

『本朝食鑑』は1697年(元禄十年)に刊行された江戸時代の本草書(医学書)で、医師 人見必大(ひとみひつだい 1642?〜1701年)によって著されました。

 

様々な食品について性質、処理法などが記され、今日でいう薬膳素材集のようなものです。
その中に味噌のつくり方がありました。

 


『本朝食鑑』
 
味噌
味噌者、本邦毎日所用之汁也、用黄白大豆而造之、其法用好大豆最肥大者、浸水一夜、取出煮熟、要不取其豆之粘汁、若取則味不美、粘汁俗称豆飴、惟釜中可煮乾爾、待其豆之煮熟、変作赤黄、而搗臼者数杵令如泥、攤于板上令略乾、夏月乾之半日、冬月不可乾之、別用精白米麹、好白鹽拌均、以揉合干豆泥、再搗臼中、亦敷千杵、取出収蔵木桶、經二三十日而成、此法有上中下之三品、大抵以麹多為上、用好肥大豆一斗、精白米麹、一斗五六升、或七八升、白鹽二合餘、而合造者上品也。經数月而易敗、不能經年、欲經年収貯者、倍塩則不敗、若敗而生酸味者、用牛蒡根去黒皮、入干味噌中則佳、然甚敗者不能収之、中品者用好大豆一斗、精白米麹一斗餘、白鹽二合餘而合造、此可經年収貯也、其下品者麹不白而少、亦經年而好者也、大家之厨悉上品造、而夏月一両月間造、冬月四五月造、新旧相逐而用之、其中下者一家侍僕之用、士商之家随其貧富造用之也、有玉味噌者、煮豆半熟、而以包刀打碎、令麁細合之、麹少鹽多、揉合為丸、令打麹大畏之以稲草、用縄縛定繁之簷間、經年用之、此下品、或用大豆煮熟、交麹鹽合米糠而造成、此最下品、其下品者、以經年能保不敗為好也、有白味噌者用白大豆肥大者、浸水煮熟、去外薄皮、杵搗為泥一斗、精米白麹一斗七八升、白鹽二合許、搗合充桶、緊封二十餘日而成、其味雖太甘、而不為美、亦不可人、惟愛新奇、經日必易敗、若用之者、合旧味噌則佳、惟常嗜鹽梅之家、巧其調和、今官家後宮用白味噌耳、
 

『廣文庫』第十八冊ほ,ま,み,む (廣文庫刊行會)より

 

改行がなく「、」ばかりなので適宜読み下ました。
味噌の品質に上中下があること、玉味噌や白味噌のことも書かれています。

〔おおよその意味〕
味噌というもの、本邦では毎日汁にこれを用いるところ、黄白大豆を用い、そしてこれを造る。その方法はよい大豆の最もふっくらと大きいものを用い、水に一夜、取出して煮て熟す。その豆の粘汁を取る必要はない。もし取ったらすなわち味は美味ではない。粘汁は俗に豆飴と称す。これ釜の中に煮て乾かして(少なくなって)よい。その豆の煮て熟し赤黄色に変わるのを待つ。そうして臼で搗いて数千杵、泥のごとくにする。板の上に攤(ひろ)げ簡単に乾かす。夏の月はこれを半日乾かし、冬の月はこれを乾かしてはならない。別に精白米麹と良質な白塩を用い、均等に混ぜ、豆泥と合わせ揉んで再び臼の中で搗くこと数千杵。取出して蔵の木桶に収め、二十〜三十日を経ると出来上がる。

 

この方法は上中下の三つの品質があり、大抵は麹が多いことをもって上となし、良質でふっくらとした大豆一斗、精白米麹一斗五〜六升あるいは七〜八升、白塩二合余りを用いる。そうして造られるものは上品である。数か月を経ると腐敗しやすく、年を経ることはできない。経年貯蔵を欲するものは、塩を倍にするとすなわち腐敗せず、もし腐敗して酸味が生じたものは牛蒡の根を用い黒皮を取り去り味噌の中に入れておく。しかれどもひどく腐敗したものはこれを 収めることはできない。

 

中品のものは、良質の大豆一斗、精白米麹一斗余り、白塩二合余りを用いて、そうして合わせて作る。これは経年貯蔵ができる。
その下品のものは、麹が白くなく、そして少ない。また年を経てそうしてよいものである。

 

大きい家の台所では悉(ことごと)く上品を造る。そして夏月の一両月間に造る。冬月は四〜五か月の間に造る。新旧の味噌は相追ってそうしてこれを用いる。その中下のものは一家の侍僕が用い、武士や商家の家はその貧富に従い用いるものを造るのである。

 

玉味噌というものがある。煮豆は半分熟させ、そうして包刀をもって打ち砕く。粗みじんにこれを合わせ、麹は少なく塩は多く、揉み合わせて丸くなし打ち麹は大きくし、この袋を稲草をもって縄を用い縛り、簷(ひさし)の間をつなぐ。年を経て之を用いる。これもまた下品。あるいは大豆の煮て熟したのを用い、麹と塩を混ぜ米糠と合わせ、そうして造成する。これは最下品。その下品のものは経年保存できるのは腐敗しないことをもってよいとする。

 

白味噌というものがある。白大豆はふっくらと大きいものを用い、水に浸して煮て熟させ、外の薄皮を取り去り杵で搗いて泥と成して一斗、精白白麹一斗七八升、白塩二合ばかり、搗き合わせて桶に充たし、二十日余り密閉して封をすると成る。その味、はなはだしく甘いといっても美味ではない。また人べからず。

 

ただ新奇なものを愛でる。日を経て必ず腐敗しやすい。もしこれを用いるもの、古い味噌を合わせれば即ちよい。これは常に塩梅をたしなむの家、その調和が巧みである。今、役人の家や後宮は白味噌を用いるのみ。

 

酸敗した味噌にはゴボウを入れるとそこそこおいしくなると書かれています。

 

精白した米麹を使い、麹歩合が高いのが上品。中品は麹歩合がずいぶん低くなっています。
大豆を堅めに煮て麹を少なく玉味噌で造るのが下品、原料に米糠まで混ぜたのが最下品。
下品とされているの地方の農家の自家製の作り方です。やはり米麹の麹歩合が高いものが高級です。

 

白味噌は甘いが美味しくないと書いているのが正直意外です。

 

 


トップページ ワークショップ お問合せ English