『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵』 椎名誠 | 小説に描かれる味噌みそ

『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵』 椎名誠

『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵』 椎名 誠

 

『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵』 (角川文庫)

 

 

作家の椎名 誠(1944年〜)氏の小説と随筆集。

 

書籍タイトルにもなっている「もだえ苦しむ活字中毒地獄の味噌蔵」は『本の雑誌』第7号(1977年)掲載の小説。
本を読んでいないと禁断症状が出てしまうほどの活字中毒 めぐろ・こおじを罠にはめて味噌蔵に閉じ込めてしまうストーリーで、著者にとっては初めての小説です。

 

舞台は東京都西多摩郡秋川五日市。著者の叔父 塚田与吉がかつて酒造の片手間につくっていた味噌の蔵にめぐろ・こおじを閉じ込める。閉じ込めて12日後にあかり採りから中をのぞくと寝転がるめぐろ・こおじが大の字にひっくり返っている周りに無数の真黒なものがゆっくりと動き回っている。おれはぶるぶると背中を震わせ「ううっ」と声を出さずにはいられなかった。

 

この真黒なものは「ぬべっちょ」もしくは「毛なめ」と呼ばれる風土虫で、土地の人は「みそ毛なめ」とも呼ぶらしい。

 

 色は茶褐色で全身に黒くてこまかいカビのような毛がはえているのだ。その黒い毛は大きい毛なめになると一センチぐらいの長さになるらしく、そのためになめくじといってもびっくりするほど巨大な虫に見えるのだ。どういうわけか麹が大好物で、土蔵の中の湿った酒樽や味噌樽にびっしりこびりついていることが多いという。
「ぬべっちょに刺されるとたいへんだから子供は味噌蔵に入っちゃいけない」と、塚田与吉の家に遊びにいくたびにオフマばあさんに言われたものである。
 なめくじが人を刺すなんて聞いたことがないが、土地の人は「毛なめにくわれると気がふれる」といってこいつを眼のかたきにしていた。

 

めぐろ・こおじを罠にかけようと初め足を踏み入れたときは「オフマばあさんが時々片づけているらしく、けっこうきちんと整理されていた」味噌蔵も、めぐろ・こおじを閉じ込めた後は「みそ毛なめ」がおどろおどろしく湧いて出てきたようです。

 

そもそもがフィクションのストーリーなので風土虫の「みそ毛なめ」もフィクションです。麹は好きでもみそは塩分が強くて、びっしりこびりつくような繁殖ができる生物はいないでしょう。

 

小説といっても登場人物は実在の人達なのでまるで実話のように読めてしまい、味噌蔵に閉じ込められた目黒孝二氏(著者と喧嘩をした『本の雑誌』発行人。著者は当時『本の雑誌』編集長)はずいぶん誤解されたようです。

 

酒蔵の栄枯盛衰と味噌製造も少し書かれていて、楽しく読めた「味噌蔵」でした。
落語の「味噌蔵」とは関係ないストーリーです。

 


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