「味噌汁の味」 日高のぼる
1979年(昭和54年)から始まった「星新一ショートショート・コンテスト」。
発表された作品の中からさらに星新一氏(1926〜1997年)が優秀作品を選んで単行本『ショートショートの広場』として刊行しています(2000年発行の10巻めからは阿刀田高氏が編者)。
第4巻に日高のぼる氏による「味噌汁の味」という作品がありました。
死んだ女房の味噌汁の味とどうして同じように作れないんだ、と息子の嫁に厳しく当たる舅 英次。味噌汁だけでなく細かい生活のことも厳しく口出しされ、夫に相談しても「おふくろが生きている頃の親父は体調が悪くて出歩けなかったが、最近は調子もよさそうで大目に見てやってくれ」ととりあってくれない。とうとう耐えられなくなった嫁の志津子は、出来心ながら舅の味噌汁椀にスプレー殺虫剤をシュッ…。
舅は一口飲んで両眼をくわっと見開き、息もはあはあとうめくような声を上げている。
「志津子さん、あんた、やったな…この味を求めていたんだ!」
第4巻は『小説現代』に1989年8月号〜1990年12月号に掲載され、星 新一氏が10点満点中7点以上評価した作品から61編選ばれています。
「味噌汁の味」の得点は8.5点。
掲載されているほかの60作品がほとんど7〜8点の中、8.5点は高得点です。
突然の交通事故で亡くなった姑も、同じように舅につらく当たられていたようです。妻だから文句ひとつ言わず従っていたけれど…。
おふくろの味、家庭の味のおみそ汁。
だしの取り方・みその合わせ方・具の組合せで、家庭ごと・つくる人ごとに味が違うと言ってもよいおみそ汁。
だからこそ舅の英次も、死んだ女房にしかつくれない "味" を味噌汁に感じていたのですね。
何も知らずに。