「味噌汁バター」 山田邦子
タレントの山田邦子氏(1960年〜)の小説集で1996年に出版されました。6編収められている中に「味噌汁バター」があります。
食事の作法に確固とした基準を持つがために、他人の食べ方を厳しい目で見てしまう智子。そんな智子が珍しく一目惚れ。
智子の厳しい基準もクリアした貴祐くんのために、朝食をつくってあげる日が訪れます。
でも、あたしにはおかずの物足りなさを補って余りある武器がある。お味噌汁だ。はっきり言って、めちゃくちゃ美味しいよ、あたしのお味噌汁は。
まず、おダシのとり方からして気合が入ってる。…
味噌汁は女の武器ですね、智子さん。
貴祐くんも食べ方の作法にはなかなか厳しいこだわりが。そんな朝、初めて作ってあげた味噌汁に、貴祐くんは。
「これこれ、味噌汁にはこれがなくちゃ」と嬉しそうにつぶやきながら食卓に戻ってきて、怪訝な顔のあたしにかまわず "あるもの" をお味噌汁に入れた。
「智子さんが嫌なら、ぼくはもう味噌汁にバターは入れません」とまで言ってくれた貴祐くん。
他人に厳しい智子に向かって、友人 奈緒美は諭します。
食べ方も、好きも嫌いも人それぞれ。
悲劇のヒロイン気分で、シジミの味噌汁にバターを決行。
なに? これ。
どーして……?
あたしは目を開けて、貴祐くんを見た。
「どうだった?」と貴祐くんが不安そうに訊いてくる。
「美味しいっ!」
貴祐くんいわく、本当はシジミ汁にバターはいまいちらしい。でも、美味しさを共有できてよかったですネ、智子さん。