『虚空を風が吹く』 杉本苑子 | 小説に描かれる味噌みそ

みそと小説『虚空を風が吹く』 杉本苑子

「手前味噌」 杉本苑子

 

『虚空を風が吹く』 (文春文庫)

 

 

作家の杉本苑子氏(1925年〜)による時代小説。
『虚空を風邪が吹く』には、時代小説が5本収められていて、いずれも芝居の世界を描いています。

 

収められている「手前味噌」では、江戸時代の名歌舞伎役者 三代目 中村仲蔵(なかむら なかぞう)の旅の一コマを描いています。

 

三代目 中村仲蔵(1809〜1886年)は当時としては珍しい自叙伝『手前味噌』を残しており、その中の「四十七 船中の乗合、水練を得たる女の話」をモチーフに小説化。タイトルもこの自叙伝にあやかってつけたようです。
中村仲蔵の自叙伝『手前味噌』はこちら

 

人気役者の中村仲蔵が、顔が知れては面倒と侍に扮して旅をする道中に出会った、銀だまし(旅道中に路銀目当てに盗みたかりをする)の姉妹と琵琶湖の船渡しでのエピソード。

 

自叙伝では日記風に旅すがら出会った人や思ったことが丁寧に書かれています。この旅のエピソードは24歳当時。仲蔵を襲名したのが56歳ですから、まだ名前も中村鶴蔵です。

 

役者絵が出回っていたとしても、場面の大津まで本人とわかるほど顔が知られていたかは脚色と見てよいと思いますが、口が大きくて鰐口(わにくち)とあだ名される仲蔵に「その鰐口が大好きで」と言われた旅のエピソードは、やっぱり「手前味噌」なのでしょう。

 


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