『日本昔話百選』所収 「味噌買い橋」「蟹の仇討」
語り継がれてきた日本の昔話を北から順に100話掲載。
その土地の風土に根ざして、口から口へ伝えられてきた昔話にいくつかみそが登場します。
味噌買い橋
「味噌買い橋」という飛騨の国(岐阜県)の昔話があります。
〔あらすじ〕
飛騨の●●村に住む、炭焼きの長吉は正直者 だった。
ある晩、夢に出てきた白髪の髭の老人がこう言った。
「高山の味噌買い橋という橋へ行きなさい。 」
長吉は 味噌買い橋のたもとでずっと待っていた。一晩過ぎたが何もなかった。二晩過ぎたが何も起きない。3日目もじっと待っていた。ようやく4日目の日、橋の近くの豆腐屋の旦那が訝しがって「いったい何をしているんだい?」「夢にお告げがあってねえ、これこれこういうわけなんだよ」
聞いた豆腐屋は笑いながらこう言った。「 わしも三日前に夢を見たよ。●●村の長吉という男の庭の●の木の下に金貨が埋まっているってね。でもわしはそんなの信じないから行かないよ」長吉は黙って聞いていた。急いで家に戻って家の木の下を彫ったら宝が出てきた。
そうして長吉は金持ちになったとさ。
味噌買い橋という橋は実際にあって、高山市の伝統的建造物群保存地区(通称さんまち通り)の西端の宮川に架かる筏(いかだ)橋の通称で、石碑も置かれています(写真右上に架かっているのが筏橋。さんまち通り側から撮影。昭和8年現在の橋に竣工)。
この橋が味噌買い橋と呼ばれるのは、宮川の西側の町に住む人々が、現在のさんまち通り西角にあった角屋藤兵衛の店へ味噌を買いに通った橋だからだそうです。
岐阜県に伝わるこの話は「味噌買い橋」ですが、ほかの地方にも似たような話が伝えられており、福島に伝わる話では日本橋、香川では五条大橋、長野では明神橋という橋の名前になっています。「夢を買う橋」「橋の夢」ともいわれる言い伝えです。
遠くヨーロッパやメキシコ、アラブ諸国にも似た昔話が分布しており、民俗学者の柳田國男も『昔話覚書』 (昭和18年)の中で「味噌買い橋」のストーリーを著しています。
この話は夢に出てきたことなので、後に夢や心理学の数冊の本でもとりあげられています。
学問・科学の目でみた味噌のページは こちら。
蟹の仇討
「蟹の仇討」は山梨県に伝わる昔話で、江戸時代に赤本で出された「サルかに合戦」の原型といわれる話です。この話で出てくるみそは、カニのために仕返しをする熊ん蜂が隠れる、味噌部屋の味噌桶です。
外から帰ってきた子ザルが囲炉裏に当たっていると栗がバチンとはじけ、火傷で痛いから水で冷やそうとすると水がめの中のカニが子ザルの手をギュッと挟み、挟まれた傷に味噌を付けようと味噌桶を空けると熊ん蜂がチクリ。もう寝ようと寝床に入ると縫い針がチクリチクリ。家の中にいられないから川の水を浴びようと外へ出たところで臼が上からドスン。
徒党を組んでサルに報復をする昔話は現在、児童向けの本では皆仲良くハッピーエンドにストーリーを変えられているようですが、それはともかく、自家製みそを熟成保管させる味噌部屋があったり、カニに挟まれた傷口にみそを付けようとしていたり、自家醸造とみそによる治療が一般的だったのがわかります。