『昨日の花』 結城昌治
作家の結城昌治(ゆうき しょうじ)氏(1927〜1996年)の随筆集。
1978年朝日新聞社刊。
結城氏はずいぶん偏食だったようで「食わざるの記」には嫌いな食べ物が羅列されています。
「食わざるの記」に対抗(?)するかのように、本文中にもはっきり指名で書かれているのが丸谷才一氏のエッセイ『食通知ったかぶり』。1972年から『文芸春秋』に連載、1975年に刊行されて好評な美食エッセイです。
丸谷氏のエッセイでどんなにおいしさを説われても、かえって丸谷氏の名文ゆえに恐ろしい迫力で気味の悪さが倍増し、想像するだけでダメなものはダメな様子。その偏食ぶりは嫌いな物でしりとり遊びができるのではと言われたほどとのこと。
酢のものがダメ、ニラやミツバの類もダメ、ウニ、スジコ、ナマコといったぐにゃぐにゃしたものもダメ。刺身も白身以外はダメ。サラダは無縁、鶏肉、ハム、ソーセージは食べない。血の滴るビフテキも気味が悪い。
料理屋に招かれたときは、食べられるものがなくて困る。
…卵に関連した味ではトロロもアレルギーを起こす。もちろん茶碗むしなどは蓋も取らない。味噌漬や奈良漬も匂いさえ嫌いだから、結局のところ、せっかく一流の料理屋に招かれながら、喜んで頂戴するのは味噌汁とご飯である。その味噌汁もナメコは抜きだ。
ナメコが入らなければ味噌汁とご飯は大丈夫なようで、ありがとうございます。
奥様は小食だったが二人の息子に似てだんだん大食いになり、食卓で自分だけがどことなく孤独な異邦人。自分も妻のようにそのうち大食いになるかも、と思いながらも偏食のせいで飯だけ大食いなのはかえってわびしい。
「野暮でも無粋でもかまわない」と自分の偏食ぶりを開き直っていましたが、家族の中で一人だけ偏食に寂しさを隠せない様子もあり、でも大食いの偏食よりは小食の偏食でいいだろう、という頑なな意志が隠れているように感じます。