「味噌買い橋」 中野京子
作家でドイツ文学者の中野京子氏もまた、「味噌買い橋」について書いています。
北海道新聞2012年4月24日の夕刊で発表された「味噌買い橋」が『ベストエッセイ2013』に収められています。
ドイツ文学者ならでは。味噌買い橋のストーリーはグリム『ドイツ伝説集』の「橋の上の夢の宝」ほかヨーロッパ各地に類似譚がある。
そのルーツは千夜一夜物語らしい。カイロに住む男が夢を信じて遠路ペルシャまでたどりつく。
けれども橋の場面は出てきません。それならいつ橋が要になる話に変わったのだろう。
単にヨーロッパに橋が多かったから?疑問形でこのエッセイは終わっていますが、中野氏がこの昔話でフォーカスしたのは情報と交流。
中野氏は味噌買い橋の話を運命の逆転の話ととらえ、夢の話を信じて味噌買い橋まで訪ねて行った長吉ではなく、橋のたもとで長吉に声を掛けバカなことはやめて故郷へ帰れと促した味噌屋のほうに視点を向けています。
もし、この味噌屋が先に長吉の夢の内容を聞き出していたら?
味噌屋は自分が見た夢と照合して、自分が宝を掘り出したことでしょう。
貴重な情報を上手にキャッチできなければ運命を切り開くことはできない。
それが運命の転換期。
橋は多くのヒトやモノが行き交い、大量の情報も行き交っていた場所。
橋がモチーフになったのは伝承の過程のどこで?いつ?ということよりも、運命の転換期は正しい情報へのアンテナと行動力が要。
場面がどこであっても、運命の転換期はもしかしたらすぐ近くにあるのかもしれません。