「味噌」 久生十蘭
作家で演出家でもあった久生十蘭(1902〜1957年)の全集に「味噌」というエッセイを見つけました。
400字にも満たない短いエッセイで、本名の阿部正雄の署名で25歳の1927年(昭和2年)11月「函館新聞」に、おそらくコラムのような形で掲載されたものです。
内容は、知人の村井が皮屋を辞めてドイツの映画関係の会社に入社した。映画で一山当てるつもりらしい。村井の映画眼力を信じている。というものです。
掲載当時、久生氏は函館新聞に勤めており、演劇集団に参加して戯曲などを書き始めた頃。
初期の作品ですがこの随筆になぜ味噌というタイトルをつけたのか正直わかりません。
転職して新しい道へ進む村井氏を応援するつもりで「成功のツボ」と表してたくて「そこがミソ」の慣用句的に使ったのでしょうか。
久生氏の作品は膨大で題材も幅広く、全集に寄せた文芸評論家の野崎六助や堀切直人の文からも人気作家ぶりがうかがえます。
技巧や表現が巧みで「小説の魔術師」と呼ばれた久生氏の随筆です。初期の作品とはいえ、ウィットと含ませた「味噌」というタイトルの気がします。