「食後の雑談」 杉森久英 | 随筆の中の味噌みそ

随筆の中の味噌みそ「食後の雑談」 杉森久英

「食後の雑談」 杉森久英

 

『食後の雑談』 (1977年)

 

 

作家の杉森久英(1912〜1997年)氏の随筆集。1977年上梓。
『天才と狂人の間』で第47回直木賞受賞(1962年)。2度TVドラマ化された『天皇の料理番』は氏の著書です。

 

本書は、書き散らかした随筆で気に入っているものを集めたもので満腹となった食後に気楽に読んでもらいたい、いう著者の意図で、先輩作家の作品のことから旅先のエピソードはじめ、食のこともいくつか入っています。

 

皮くじら

 

北国の港町(石川県七尾市)に生まれた著者は「くじらはうまい物だと思っていた」と、郷里の皮くじらをなつかしそうに書いています。

 

皮くじらも、うまいものだった。魚屋では店先に、平らな鍋をおいて、水を満たし、その中に、薄く銀杏に切った白い皮くじらを浮かしてある。アブラがいっぱい水に浮かぶと、水を取り換えるらしい。それを買って来て、酢味噌でたべるのだが、コリコリして、甘くてうまかった。

 

ところが東京に住むようになって料理屋で「さらしくじら」を食べたが味もそっけもない。薬品のような臭いがすることもあり、東京はどうして臭くてまずいさらしくじらを魚屋で売るのか。それは加工したさらしくじらを売るからで、家庭のおくさんたちが簡便さを求めて手っ取り早くなる代わりに、実質は低下していくばかり、と嘆いています。

 

 

だごじる

 

自宅の世田谷で新鮮なイワシを見つけたので買って帰ったが、郷里のダゴ汁を思い出して。

 

…家内に銘じてツミイレにさせた。東京ではツミイレという上品な名前で呼ぶが私の郷里の能登ではイワシダゴという。ダゴとはダンゴのことである。その汁はダゴジルである。
 そのダゴ汁のうまかったこと!
「頬が落ちそうだ」などという俗悪な形容句は、いやしくも文筆を業とする者の安易に使うべきものではないのだが、ほかに適当な字句がないので、やむをえず一時借用するけれどともかく、身にしみてうまいと思った。何しろ、本当の魚の味がするのである。

 

それにつけても店で買ってくるカマボコ、ツミイレ、ハンペン、チクワ類はいかにまずいか。すべて大量生産で二百カイリの影響で原料はスケソウダラだけなのがよろしくない。
ツミイレくらいなら自家製でつくって食べたまえ! と。

 

能登のダゴ汁、食べてみたいものです。

 

 

松山で食べたもの

 

20年ぶりに松山へ行ったときのこと。
食べたいものなら何でも、と言われ季節の魚が食べたいと所望。刺身から順に出てきた。

 

最後にサツマ汁というものが出た。ドロリとした味噌の中に、カニの身をほぐしたものや、いろんな調味料をすりこんだものを、麦飯にかけて食べるのである。これほどまでに満腹しているのに、私は二度おかわりをした。

 

四国のサツマ汁は名前はサツマですが郷土料理です。

 

魚については、能登生まれの著者には一言あるようで、アメリカのキッシンジャーという大臣は、日本人は魚の匂いがするといったそうだしイギリスの王子は、イカを食ってみて、ゴムのようだといったそうだが、よく噛んでもみないで、なにがわかるものか。と、啖呵切ってます。

 

本書に出てきた12の食べ物のうち、10が魚介で残りはオクラ、むくげと氷室の氷。著者がいかに魚を好んだかがうかがわれます。

 

 


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