『まどわく』 桃井かおり | 随筆の中の味噌みそ

『まどわく』 桃井かおり

『まどわく』 桃井かおり

 

『まどわく』 (集英社be文庫)

 

 

女優、そして映画監督もされる桃井かおり氏の著書です。1992年から月刊誌に掲載されていたエッセイ17本をまとめて、2002年に上梓したもの。

 

タイトル『まどわく』は、こちら側とあちら側の境目の窓枠、自分と他人との間の窓枠、時に黒リボンがつけられた黒縁写真の枠の比喩のようです。

 

これらエッセイを月刊誌に掲載し始めたのは著者が40歳代に入ってまもなく。職業柄、関わる人が多いからかもしれませんが、ずいぶんと人の死と向き合ってきたのだな、と思えます。

 

このエッセイを書いていた頃かもしれませんが、いつだったかTVのトーク番組で「自分のお葬式の準備はもうしている。自分が死んだら葬儀なんてあっという間で慌ただしくて、弔問に来てくれる人の飲みたいお酒や食事の好みも全部メモで残して『こうしてくれ』って書いてある。」と言っていたのを強烈に覚えています。

 

「氷の味噌汁」というタイトルのエッセイが入っていました。
これも、不意の事故で亡くなった親しい先輩ヤイコの訃報を聞きながら。

 

゛あんた味噌汁も作れないで、これから女やろーっていうの? ダメ!ダメ! 作り方教えるからホラ覚え。”

 

゛好きな男に味噌汁くらい飲ましてやりたくない? ねエー飲ましてやろうよォ〜” 

 

まず男の胃袋をつかめとはよく言われますが、著者が「どうにか二十歳」の当時、四十歳くらいの先輩から言われた゛女として作れるべき料理” が味噌汁でした。

 

飲み屋のカウンターで、グラスをお椀、氷をみそ汁の具にたとえながら話したヤイコとの初めて交わした会話。そんな「氷の味噌汁」をすすりながら話すヤイコの姿や声が、朝から水割りを飲む今も聞こえてきます。

 


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