『食は広州にあり』 邱 永漢 | 随筆の中の味噌みそ

みそと随筆『食は広州にあり』 邱 永漢

『食は広州に在り』 邱 永漢

 

『食は広州に在り』 (中公文庫)

 

 

 

実業家で作家の邱 永漢(きゅう えいかん 1924〜2012年)氏の食べ物についてのエッセイ集。1954年(昭和29年)から『あまカラ』に連載され、1957年(昭和32年)龍星閣から刊行された文庫版。

 

「踏破菜園」というタイトルのエッセイの副題に「とかく世間は手前味噌」とあります。

 

美食家としても知られる邱 永漢氏。タイトルどおり美食は中国料理。その中でも広州料理を美味の中心としていますが、「手前味噌」ということばに日本人のユーモアを感じ、思わず笑みがこぼれるそうです。

 

「踏破菜園」は中国語で、ふだん野菜ばかり食べている人が羊を食べたら「羊踏破菜園」。羊に踏みにじられた菜園のように胃の腑がびっくりしたということから、現在では他家に招待されて盛大なる歓待を受けたときの感謝の意を表する言葉として使われていることばです。

 

いくらごちそうでも普段食べているものが一番おいしく感じるものですが、中国で連日歓待の宴を受けた猿之助一座が「塩鮭でさらりとしたお茶漬けが食べたい」とぼやいたとか、パリでも味噌醤油を絶たれて孤城落日を感じるとか、淡水魚を生で食べて当たってしまい長く苦しんだとか。

 

戦時中に中国に出兵した兵士たちがお正月の餅に苦心した話は、なんとか杵で搗く餅をつくろうと臼の代わりになるものを現地で手に入れてどうにか餅を搗いたけど、その臼は実は現地の便器だった…。

 

著者は台湾人の父親と日本人の母の間に婚外子として日本統治下の台湾に生まれ、18歳で日本へ。台湾へ戻ってからも中華民国独立運動に関係して香港へ亡命し、最期は東京で亡くなりました。この本は美食の本ですが、直木賞まで受賞した著者の理解する日本人と日本語が感じられました。

 


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