みそ製造の極意

みそ製造の極意

みそづくり 三箇条

 

 

みそづくりの大事な三箇条は「一 麹、二 炊き、三 仕込み」といわれます。

 

「一 炊き、二 麹、三 仕込み」としている書籍もありますが、(公財)日本醸造協会では前者の順番でみそづくりの三箇条としています。

 

いずれにしても、一 元気な麹を使うこと、二 大豆の蒸煮をしっかりすること、ふっくら炊けるよう前日からの浸漬もしっかり行うこと、三 材料はしっかりムラなく混ぜ合わせ、空気が入らないようしっかり踏み込み、発酵熟成しやすい環境を整えることです。
何度も「しっかり」を繰り返してしまいましたが、味はもちろん香りや色もこの三箇条に集約されるのですね。

 

ちなみにしょうゆでは「一 麹、二 櫂(かい)、三 火入」、日本酒では「一 麹、二 酉元(もと/とりへんに元)、三 造り」といわれますが、発酵のもとになる麹が重要なのはどれも同じ、というわけです。

速醸法 で大量生産

速醸法は、温醸法加温法などともいわれます。
仕込んだら温度調節のできる部屋に保管して麹菌の働きを活発にする最適温度を保ちます。1〜2ヵ月の加温で分解発酵を促した後、冷却期間をおきます。短期間にみそをつくりあげることができるので、大量生産が可能になりました。

 

この加温は、四季の温度変化に沿った温度調節で、より天然醸造に近い条件で製造しているようです。

 

速醸法の歴史

1915年(大正4年)当時官吏であった河村五郎氏*により、みそ速醸法の特許が取得されました。熱仕込みといわれる速醸法はその後、当時の東京でのみそシェアを占めていた仙台みその製造法と相まって、早づくりの仙台みそ=早仙と呼ばれるようになりました。
生産効率が良く、価格も手軽だったので東京市民に急速に受け入れられました。
 *のちの株式会社日出味噌 創業者

 

その後、1944年(昭和19年)に長野県の中田栄造氏**が中田式味噌速醸法を開発し、わずか20日間でみそを熟成させる特許を得て信州みその発展のきっかけとなりました。
 **現在のマルマン株式会社 三代目社長

 

大都市東京での需要、また日本の人口増加に伴う需要にこたえられたのは速醸法があってのことですね。

昔ながらの 天然醸造

速醸法に対して、天然醸造があります。

 

仕込んだらそのまま保管し、温度や湿度変化といった自然の季節の移り変わりを利用して熟成してしていく伝統的な方法です。
家庭で仕込む手づくりみそも天然醸造ですよ。

 

冬〜春は低温のため発酵はゆっくりと進み、夏に気温が高くなると発酵が盛んになります。
秋〜冬は徐々に気温が低くなり、発酵も落ち着き、熟成していきます。
四季の移り変わりにより、発酵、分解、熟成がじっくりと行われ、塩かどがとれてまろやかでおいしいみそができます。
みそによって1〜3年の熟成期間を要します。

 

大手のみそ製造業社でも、近年の消費者ニーズから天然醸造をうたっている商品が出ています。
人工的ではない安心感と、手間ひまかけたみそという高級感とおいしさを感じさせます。

 

天然醸造には木桶を使って熟成させるみそ蔵が残っています。

 

木桶

杉材を使った木桶です。杉を使う理由は資材が手に入りやすいのと、木質が柔らかいので菌が住み着きやすいからです。

 

同じ製造元の蔵内なので大きくは変わりませんが、住み着く菌も木桶ごとに異なり、厳密には木桶ごとに味が異なるといわれています。製品として流通に出すには、出荷前にバランスをとって調整します。

 

木桶の寿命は100年以上です。住み着いている菌がその蔵のみその味をつくりますので古い木桶を大切に使っています。ただ工場の拡大や建て替えに伴い、管理のしやすいステンレス製などの容器に変えるようです。

 

醸造用の大桶職人は現在一人しか残っていらっしゃいません。木桶の寿命100年以上といっても、このままだと消滅する日がいつか来ます。そこで木桶職人を復活させようとプロジェクトを立ち上げた醤油の醸造元が香川県の小豆島にあります。

 

樹齢80年以上の杉材で木桶に使える良い材木を選ぶところから。醸造と熟成は時間がかかりますが、木桶もまた使えるほどの杉材が育ち、選ばれ、製材、乾燥、組み立て…。こうして自然からいただいた器で、自然に生きる菌や酵母がじっくり育ててうま味あふれるみそやしょうゆができると知ると、本当に自然ってすごい。こうしてたくさんの人が関わって出来上がったみそもしょうゆも、とても粗末にはできません。

みそ 仕込みの時期

みその仕込みは、一年中いつでもできます。
かつてみそが自家醸造されていた頃は、農閑期に一年分の仕込みがなされたこともあり、秋〜冬に仕込み作業がされました。そのため通例となったこともあり1〜2月に仕込みを行う寒仕込みが一番よい、といわれます。寒仕込みの良さを挙げてみましょう。
 

原料の新鮮さ

大豆は古い大豆だと吸水が悪く、蒸煮に時間がかかります。
また麹となる米、麦も新鮮なものを使いたいところです。
原料の新鮮さを考えると、なるべく新しい収穫後のものが良いと言えるでしょう。

 

雑菌の繁殖しにくさ

天然醸造で大量に仕込むみそ醸造業では雑菌のリスクが高い時期は避けたいところです。

 

微生物が活発に動いて繁殖する温度は10〜60℃で、最もよく繁殖するのは35℃前後です。
寒仕込みといわれる1〜2月の平均気温(2015年東京/気象庁発表)は5.8℃前後ですので、やはりこの時期は雑菌の活動も少ないと言えるでしょう。

 

 

 

徳島県の御膳みそは一年で最も空気が澄んだ大寒の日に仕込むのを常としています。

 

仕込みみそ内部の活動菌からみると、寒仕込みは仕込んでしばらくは活動がゆるやかで助走期間、夏に向かって活動が活発化し猛スパート、秋〜冬でクールダウンしながら呼吸を整える…という動きになります。
熟成の「山」と考えると、年間の気温上昇の山と並行して適正なのかもしれません。

 

みそによっては盛夏に仕込むことを特徴としているみそもあります。

 

重石で 溜り を上げる

桶にみそを仕込む際は、大桶の中に職人さんが入り、足で踏み固めて空気が入らないようにします。空気が入らないことで嫌気性の乳酸菌や酵母菌のはたらきを促します。

 

表面を均した後、和紙で仕込みみその表面を覆い、その上から重石を積みます。積むのもやはり職人技です。
東海豆みそでは、今もこの伝統が守られています。

 

仕込みみそ内の酵母は呼吸をするので、熟成が進むにつれみその内部に二酸化炭素がたまってしまいます。みその内部にガスがたまると、みその固形物は上方向へ、分解されて生じる液体は下方へと分離してしまうのでガスを重石で押し出して分離を防いでいます。

 

重石で上に押し出した液体が溜り(たまり)です。仕込みみそ上部に溜りを上げることでみそと空気を遮断します。空気中の雑菌からの汚染を防ぎ、腐敗を防ぐ役割もあります。

 

溜り
たまりしょうゆは、刺身しょうゆとも言われ、照り焼きや煎餅に使われるうま味の強いしょうゆですが、東海豆みそをつくる過程でにじみ出た液体を取り出したのがその始まりといわれています。
たまりしょうゆは通常使われる濃口しょうゆなどより、原料の小麦の分量が少なくとろみがあるのが特徴です。

 

重石といっても本物の石だと衛生面など管理が難しいことから、成形された重りを用いて熟成する製造業者が多いようです。

 

天地返しでは上がった溜りを仕込みみその内部に混ぜ、再度重石を乗せますが、天地返し後の重さは初めより軽くします。

 

家庭でみそを手づくりする際の重石は、道具を参考にしてください。

 

芳香をつくりだす 酵母

みその熟成がすすむと、食欲をそそるみその良い香りが漂います。
出来上がったおみそ汁から漂うホッとする香り。香りは食品の風味を彩ります。

 

発酵食品では酵母がキーワーカーです。

 

酵母はブドウ糖から香味成分のエチルアルコール(エタノール)を生成します。
発酵食品で知られている酵母はビール酵母、ワイン酵母、パン酵母などなど。日本酒でもフルーティーな香りが重視されますが、それらは酵母のはたらきによって生成されたものです。

 

醸造業界では、自社開発もしくは醸造協会が開発した酵母で、よりよい味を、安定してつくり出そうとしています。

 

しかしながら、消費者庁のみその定義では、酵母や乳酸菌といった菌類の混合は記載されていません。

 

酵母は目には見えませんが空中を浮遊しているので、伝統的には蔵つき酵母という、みそ製造業社の蔵(仕込み・熟成蔵)や木桶についている酵母がはたらいて、その蔵の味を醸し出しています。

蔵ごとに味が異なるのは蔵つき酵母のはたらきだとも言われています。

 

酵母がいわば当たり前に働くので、みその定義には入っていないのかもしれません。

 

近代化された工業的なみそ生産では、麹、蒸煮大豆、食塩を混合する際に酵母と乳酸菌も混合する、と明言している製造業社があります。
また郷土みその秋田みそは酵母ゆららを特色としてロゴに出しています。

 

定義にはないけど、重要なはたらきをする酵母。
みそを家で手づくりするときは、あえて酵母を入れなくても、一緒に暮らしている酵母たちが熟成の手助けをしてくれます。

 

 

みそソムリエのテキストにも、みそ製造工程で酵母や乳酸菌を混合するとは書かれていませんが、実は宿題のみそづくりキットにはセットとして入っているんですよ。
キットでは、酵母や乳酸菌は種みその形で入っています。種みそは生みそで、すなわち生きているみそ。酵母や乳酸菌がその中で生きています。種みそを一緒に仕込むことで発酵を促すわけですね。


 

天地返し で 発酵均一化

みそを撹拌して上部と下部を入れ替えることを天地返しといいます。

 

他の熟成容器に入れ替えると思ってよいです。ミニショベルではないですが重機を使って入れ替える工場もあります。

 

仕込みから1〜3ヵ月後に天地返しをすることで乳酸菌などの好気性菌の発酵を促し、木桶の内部と外に近い部分の発酵熟成度合いを均一にします。

 

手づくりみそで5キロ程度の少量の場合は天地返しをしなくてもよいといわれています。

 

みそずり で なめらかに

パッケージに詰める前に、大豆の粒や麹粒をつぶしてなめらかにすることをみそずりもしくはみそ漉しといいます。漉し網の網目は通常1ミリ程度です。
白みそはなめらかなものがほとんどですし、淡色〜赤みそでも大きく流通しているみそはみそずりをしたすりみそが多いようです。

 

みそ製造業者によっては、すりみそにしてしまうことで原料のごまかしができてしまうので、原料に自信があるからすりみそにはしないと明言しているところもあります。

 

みその量り売りをしているみそ専門店では、同じ郷土みそでもはっきり「粒みそ」「すりみそ」と分けて出しています。
すりみそは、おみそ汁の最後、お椀の底に大豆や麹のかけらが残りません。粒が残っているほうが風味が強くておいしいと感じる人もいます。

 

手づくりみそではみそずりまでは難しいですが、購入時は好みや用途で使い分けてよいと思います。

出荷前の 加熱処理 で安定化

製品化にあたり、みそ製造業社によっては出荷前に加熱処理をして包装します。

 

加熱処理をしない生のみそは酵母が生きたままなので、出荷から店頭に並び消費者の手に届くまでの間も熟成が進みます。熟成によって色も変わりますので品質を安定させるために加熱処理をします。

 

出汁類が入ったみそは酵母によって出汁の成分が分解されてしまうので加熱処理が必要です。
また、生きている酵母は呼吸をしますので容器が膨らんだり場合によっては破損することもあるため加熱処理をします。

 

流通過程ではトラック内などで40℃以上の高温になることもしばしばあります。品質の安定のために加熱処理で不活性化しているのです。

 

店頭では、冷蔵しているみそや、室温の棚置きでもみそが呼吸できるように容器に弁がついているものは酵母が生きている生みそです。


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