国を象徴する菌 麹菌
国を象徴する花や動物があります。日本の花はサクラと菊、日本の国獣は鳥のキジ、魚は錦鯉です。
そして…みそやしょうゆ、日本酒に使われる麹菌はなんと国菌なのです。
麹菌はコウジカビ、麹菌(きくきん)ともいい、日本の古来からの醸造、食品をはじめ豊かな食文化の醸成に大きな貢献をしてきました。また高峰譲吉博士が1894年に消化剤タカジアスターゼを発明したのも麹菌からでした。
国花や国獣は国際法的なものではありません。国菌も同様ですが、2006年に日本醸造学会によって麹菌が国菌に認定、宣言されました。
(前略)
…日本醸造学会は、われわれの先達が長い間大切に育み、使ってきた貴重な財産「麹菌」をわが国の「国菌」に認定する。
平成 18年10月12日 日 本 醸 造 学 会
平成25年11月28日 一部改正(菌名変更)
麹菌とは、 わが国で醸造及び食品等に汎用されている次の菌をいう。
(1)和名を黄麹菌と称するAspergillus oryzae。
(2)黄麹菌(オリゼー群)に分類されるAspergillus sojaeと黄麹菌 の白色変異株。
(3)黒麹菌に分類される Aspergillus luchuensis(Aspergillus luchuensis var.awamori)及び黒?菌の白色変異株である白麹菌Aspergillus luchuensis mut.kawachii(Aspergillus kawachii)。
注)Aspergillus niger(クロカビ)は、黒麹菌とは異なる菌種であり、麹菌には含めない。
宣言された国菌はいずれもAspergillusアスペルギルス属に分類される菌で、アスペルギルス属はこのような姿をしています。
Aspergillus / CdePaz
カビは菌体外に酵素を生産する性質をもちます。Aspergillusは多量のデンプン分解酵素やタンパク質分解酵素を生産します。
タンパク質分解酵素を多く生産する株がみそ、しょうゆに使われます。
デンプン分解酵素の生産力が強い株は日本酒の製造に使われます。
国菌となったそれぞれについて見ていきましょう。
黄麹菌
(1)の黄麹菌(Aspergillus oryzae)はニホンコウジカビです。
デンプン分解能力に優れており、みそ、醸造酒、酢、みりん、しょうゆの製造に使われます。名前の通り、日本人には最も親しみ深い菌です
oryzaeオリゼーはラテン語で米を意味します。
菌叢(きんそう:菌が集まった状態、フローラ)の色は黄、黄褐色です。
ショウユコウジ カビ
(2)の黄麹菌に分類されるショウユコウジカビ(Aspergillus sojae)は、タンパク質分解能力に優れ、しょうゆの製造に使われます。
sojaeソーヤはラテン語で大豆を意味します。
菌叢(きんそう)の色は黄緑色をしています。
黒麹菌
(3)黒麹菌(Aspergillus luchuensisvar.awamori) はアワモリコウジカビです。
泡盛の製造に使われます。クエン酸発酵が盛んで強い酸性を保つので雑菌の繁殖を防ぎ、比較的気温の高い地域での醸造に適します。
菌叢(きんそう)の色は黒褐色です。
もう一つ、(3)の黒麹菌の突然変異種 白麹菌(Aspergillus luchuensis mut. kawachii)は、河内源一郎氏によって、自身が培養に成功した泡盛黒麹菌の中から突然変異種として発見されました。
1924年に学会に発表され、河内白麹菌ともいわれます。すでに泡盛黒麹菌によって製造された焼酎は九州に広まっていましたが、この白麹菌によって焼酎の品質が飛躍的に向上しました。
菌叢(きんそう)の色は褐色をしています。
日本の食品に使われるほかの麹菌
紅麹菌(Monascus purpureus) ベニコウジカビです。
台湾、沖縄などで豆腐よう、紅酒(あんちゅう)などの発酵食品に使われます。
鮮やかな紅色の麹になります。
purpureusプルプレウスはラテン語で紫色を意味します。
カツオブシ菌(Aspergillus glaucus) カツオブシのカビ付けに使われます。
水分が少なく高塩分でも増殖できる力があり、カツオブシ菌によって水分が抜けるとともに余分な脂肪が分解され、芳香、光沢を出します。
glaucusグラウコスはラテン語で、青紫色の、灰色の、という意味です。ギリシャ神話にもグラウコスという海神がいます。